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父は監督「他校の野球部を勧めていた」…それでも“岩手の怪物”佐々木麟太郎が《花巻東進学》を強く希望したワケ
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byYuki Suenaga
posted2021/11/30 11:03
今大注目の高校生スラッガー・佐々木麟太郎。父は花巻東高監督の佐々木洋氏だ
「命をかけて花巻東のためにプレーしたいと思っています」
気持ちを真っ直ぐに表現する。しかしそこに悲壮感はない。自らの居場所で生き生きとプレーし、チームのために尽くす。
「自分が打てる打てない関係なく、チームのために貢献するのが自分の目標です」
言葉通り、どのようなバッティング、プレーがチームのためになるのか、それを常に考えながらプレーしている。攻撃の際、投手の癖、攻め方などに気づくとすぐにネクストにいる打者のところに行きアドバイスをする。出塁した時も同様だ。守備の際も一塁から投手に「いい球だよ」「自信持って投げて」「強い気持ちで行きましょう」などと声をかける。苦しい局面の時、打ち取った時、特に1年生投手が佐々木を見て、リラックスした表情になるのを何度も目にした。どっしり構える佐々木の存在はとても大きい。
「チームのために」
彼はいつも全身全霊で臨んでいる。
名刺代わりにしては鮮やかすぎた「大会第1号ソロHR」
自身初の全国大会となる明治神宮大会、母校の先輩、大谷翔平が大会前にMVPを獲得したこともあり、同校は大会前から注目を集めたが、佐々木はプレッシャーをプラスに転換し、大きなインパクトを残した。
記録にも、そして記憶にも。
開会式の余韻が残る中で開始した國學院久我山との初戦。久々の高校野球の観戦に浮き立つ観客、朝の試合特有のなんとなく落ち着かない空気を、佐々木は鮮やかに、そして力強く斬り裂いた。
「えっ」「おおおお」といった観客の声を乗せたボールは、ライトスタンドに吸い込まれていった。大会1号のソロホームラン。名刺代わりにしては鮮やかすぎる一発だった。
死球を受けても打席に立つ
その後の試合でも要所要所で安打を重ねたが、観客の度肝を抜いたのは広陵との準決勝。5対2のビハインドで迎えた3回表の第2打席。佐々木は痛めている左足に死球を受けた。思わず地面に倒れ込み、苦痛の表情を浮かべる。球場の空気が凍りついた。