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真夏の砂漠250km「完走率は47%」…なぜ元保育士ランナーは“世界で最も過酷なサハラマラソン”に挑戦したのか? 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byTomosuke Imai

posted2021/11/29 11:00

真夏の砂漠250km「完走率は47%」…なぜ元保育士ランナーは“世界で最も過酷なサハラマラソン”に挑戦したのか?<Number Web> photograph by Tomosuke Imai

今年2月にサハラ砂漠で開かれた“サハラマラソン”。世界で最も過酷と言われるこのレースで、ある日本人選手が準優勝の快挙を成し遂げた

 レースは、7日間(6ステージ制)で250キロを走り切るが、必携品が大会事務局から指定されている。

 14000キロカロリーの食料(7日分)、サバイバルナイフ、コンパス、ライター、安全ピン、ホイッスル、寝袋、エマージェンシーシート、200ユーロなどだ。お金はリタイヤした後、モロッコのワルザザード市内に送り返されるので、パリに戻る日まで1人で滞在しなければならないため。背負うザックの重さは約7キロだ。レース直前やレース中には必携品をちゃんと持っているかのチェックがあるが、尾藤さんはフランス語も英語も会話が難しいので、大会の関係者に絵を描いてもらってチェックを済ませたという。そこで必携品がない場合は、時間が加えられるなどのペナルティが発生する。

カメラ片手に“世界一過酷なレース”を走る

 レース前日に伸ばしていた髪の毛をバッサリと切った。準備はすべて整った。スタート初日、尾藤さんの手にはゴープロが握られていた。

「今回は、クラウドファンディングで協力してもらって走ることができたんですが、みんなに『優勝という結果よりも、サハラ砂漠を走る映像があった方が価値があるから』って言われたんです。ゴープロを帽子のつばにつけるという手もあったんですが、砂漠の映像を撮るだけならドローンを飛ばせばいい。私は話しながらの方がいいだろうってことで撮って、しまって、しばらくしてまた撮るみたいな感じで走っていました」

 走行区間には500メートルごとに、岩などに方向が書かれており、それを見てコースから外れないよう配慮がなされている。夜は蛍光ペンライトが置かれ、目印になっていた。

 コース上には10キロから13キロごとにチェックポイントがあり、そこで1.5Lのペットボトルの水を2本もらえる。尾藤さんは、リュックの左右の前ポケットに800mLのボトルを入れていたので、そこに水を足し、残りは頭にかけて服を濡らした。カンカン照りの中、風が吹くと体温を下げてくれる。それでも熱気が自動乾燥機となり、アッという間に服が乾いた。

夜中には異様な声が「色んなテントから『おぇー』って」

 1日目は32キロ、2日目はサハラ砂漠の観光で有名な「メルズーガ(大砂丘)」を32キロ走った。特に2日目は、異常な高温となり、最高気温52.8度を記録。選手の体力を奪っていく。尾藤さんの足の指もダメージを受け、人差し指の爪と皮膚の間に膿が溜まった。自ら安全ピンで刺して膿を出し、浮いていた爪をはぎ取り、消毒液で感染症対策をした。

【次ページ】 暗闇から異様な声が

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尾藤朋美

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