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真夏の砂漠250km「完走率は47%」…なぜ元保育士ランナーは“世界で最も過酷なサハラマラソン”に挑戦したのか?
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTomosuke Imai
posted2021/11/29 11:00
今年2月にサハラ砂漠で開かれた“サハラマラソン”。世界で最も過酷と言われるこのレースで、ある日本人選手が準優勝の快挙を成し遂げた
大変なのはレース中だけではない。厳しい日中を終えて極度の疲労を抱えた夜。異様な声で目が覚めた。何事かと思って起きると、複数のテントから人が嘔吐している声が響いてくるのだ。
「それが一人、二人とかじゃなくて、いろんなところからおぇーっていう声が聞こえてくるんです。夜の砂漠は真っ暗ですし、すごく怖かったですね。翌日は、テントの中で倒れたままリタイヤする人も増えて……」
過去一の厳しさにリタイヤ続出、ついに死者まで
3日目のスタートは、黙とうで始まった。
「朝、スタートする際、『少しでも危ないと感じたらチェックポイントから次に行かないでください』と大会事務局から言われました。選手は常にGPSをつけていて、何かあった時にSOSボタンを押せるようになっていたんですが、例年以上に使用する人が多くて、選手を移送するヘリコプターも全然間に合っていない状態だったんです。2日目には死者が出てしまいましたし、それでなくても人はバタバタ倒れていくし……。なんて厳しいレースなんだって思いましたね」
同時に尾藤さんの体にも異変が出始めた。レース中に初めて嘔吐し、下痢にも襲われた。
「30年間生きてきた中で一番具合悪かったです……」
あまりにも調子が悪いので、チェックポイントで点滴を打ってもらおうと申し出た。点滴を打つと2時間のペナルティが加算されるが、そんなことは言っていられないほど苦しかったのだ。だが、「あなたは話ができているし、まだ元気だから大丈夫」と言われ、打ってもらえない。5分間ほど仮眠を取り、また走り出したが、まったくパワーが出なかった。
実は、前夜からほとんど食事が摂れていなかったのだ。
持ち込んだ食料も「あまりにもマズくて…(苦笑)」
「本当はアルファ米とか持っていきたかったですが重さが出てしまうので、過去に優勝したランナーが紹介していたイギリス製の乾燥オートミールを持っていったんです。軽くて高カロリーということで。本来はお湯を入れて食べるんですけど、砂漠ではお湯がないので、水を入れてふやかして食べたんですよね。それが悪かったのか、あまりにもマズくて(苦笑)。3日目の夜には半分、4日目の朝にはほとんど食べられなくなってしまって」
4日目は、82.5キロを夜通し走るオーバーナイトステージだ。体調不良でエネルギー不足に陥った尾藤さんに、さらなる困難が待ち受けていた。
《後編へ続く》