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Overseas ReportBACK NUMBER
大谷翔平の母校・花巻東「一つのミスも許さないでやってきた」“岩手勢38年ぶりの東北大会優勝”を決めるまで
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAyako Oikawa
posted2021/11/18 17:00
岩手県勢として38年ぶりに東北大会を制した花巻東。初の明治神宮大会への切符を勝ち取った
岩手県大会の後、田代はチームメイトたちに高い意識を持って練習に臨むように働きかけた。
「一つのミスも許さないでやってきた。厳しいことも言い合ってやってきました。そうしないと向上しないので」
足並みが揃っていなければ、そういった厳しさは時に軋轢を生むこともある。しかしチームメイトは、田代の気持ちを分かっていた。
1、2年生が必死で練習する姿に、3年生も全力で練習相手をしてくれた。「3年生からは絶対にセンバツにいってくれ、と言われました」と田代は振り返る。
投手陣も奮起した。萬谷は、投手陣と積極的にコミュニケーションを取り、高い意識で練習に臨んだ。
「自分以外のピッチャー陣も厳しく言い合ったり、練習でも詰めてできたのかなと思います」
球を受ける田代、ほかの捕手たちも投手陣の成長と手応えを感じていた。フォームの修正により、スピードも増し、制球力も上がった。技術面での不安ももうない。あとは精神面だった。
田代は東北大会のピンチの場面で何度となくマウンドに駆け寄り、投手に「気持ちで負けるな。絶対に気持ちで負けるな」と言い続けた。それは自身への言葉でもあった。強い気持ちを持とうと思いながらも、不安はいつも隣り合わせにある。
「明治神宮大会、センバツが目標と言い続けてきたんですけど、いけなかったら……と考えることもありました。怖かったです」
大会後、田代は苦い記憶を辿りながら、ゆっくりとそう吐露した。
「(東北大会まで)競る試合がなかったので心配な部分もありました。でも競る試合ができたことはチームの成長につながったと思いますし、勝ちへの執念は強くなったのかなと思います」
今年の花巻東は「打撃のチーム」ではなく「全員野球」
明治神宮大会をかけた聖光学院との決勝戦。準決勝に続いて投手戦になったが、先制タイムリーを打ったのは、4番田代だった。打撃の不振を吹き飛ばすかのような、またここまで頑張ってくれている投手陣への感謝のような強烈な2塁打だった。その後も5番小澤修、3番の佐々木という主軸がタイムリーを放ち、4対1で東北大会初優勝を果たし、初の明治神宮大会、春のセンバツの切符も確実にした。
新たな歴史をつかみとった田代の目には涙はなかった。
「今日は笑顔で終わりたかったので」
準決勝後に号泣したことを思い出し、少し恥ずかしくなったのだろうか。はにかんでそう話した。
「打撃のチーム」という表現は彼らの一部でしかない。強固な守備で野手が投手を助け、打撃が振るわない場面では投手陣が奮起した。東北大会では雨でコンディションが悪かった決勝以外、エラーはなかった。また出場した全選手が打点を挙げた。皆で守り、打つ。「全員野球」という表現の方が似合うような気がする。
初出場となる明治神宮大会。荒削りで未完成の部分がある彼らが、どんなプレーをするのか。新しいページにどんな歴史を加えていくのかとても楽しみだ。
<岩手の怪物・佐々木麟太郎編に続く>