しかし一方で佐々木監督が「防御率が8点台だった」と言うように投手陣に課題が残った。特にランナーを背負ってからリリーフで登板した投手たちが点を奪われるケースが多かった。

　岩手県大会で4年ぶりの秋季優勝をしたものの、主将の田代旭の表情には明るさはなかった。

「明治神宮大会と春のセンバツを目指しています。でも投手力は物足りない。投手陣のレベルも周囲と比べると低いと感じています。東北大会までに修正したいですし、全体的に失点が目立ってしまっているので、最少失点でいけるように守備面でもミスを無くしていきたいです」

　言葉の端々からは苛立ち、焦りも感じられた。　

　東北大会やその上に進めば打撃で補えない場面も出てくる。投手陣の奮起が必要だ。いつも球を受けている田代には、投手陣にはその力があると信じていた。

佐々木監督「田代以外、主将は考えられなかった」

　田代はチームメイトから絶大な信頼を受けて、新チームの主将になった。責任感もあり、リーダーシップもとれる。佐々木監督も「田代以外（主将は）考えられなかった」と話すように、首脳陣からの信頼も厚い。

花巻東高野球部・佐々木洋監督（2009年撮影）　©Hideki Sugiyama

「自分は1年生の時からチャンスをもらっていたので、チームを引っ張る責任があると思っていた」

　ただ誇らしさとともに、大きな責任、そしてプレッシャーもあった。

　新チームが発足し、秋の大会に向けてレギュラー争いが行われる。大所帯のチームでは当然ながらベンチ入りできない選手も出てくる。自らが思うキャプテン像やチームを模索しながら、「チーム一丸」で戦うために、部員をまとめていかなければならない。田代に限らず、多くの主将がぶつかる問題だろう。

　地区大会、県大会と1試合ずつ目標を掲げ、試合後は課題を話し合った。打撃のチームと言っているが、チーム一丸で戦うためには全員の足並みを揃えなければならない。

　県大会以降、打撃が不振だった田代は、大きく気分が落ち込むこともあったという。しかし自らを鼓舞して、練習に打ち込み、チームを引っ張ってきた。

「本塁打もなかなかでなくて、思うようなバッティングができませんでした。でも自分のことよりもチームの勝利を考えて、ここまで取り組んできました」

　苦しみ、悩みながらチームを牽引した。

「え、田代、どうして」県大会準決勝のアクシデント

　勝利への強い渇望をもって臨んだ東北大会。

　初戦の東日大昌平との試合は、1年生の佐々木麟太郎の2ランホームランを含む10安打で、11対1の6回コールド勝ちで好スタートを切った。準々決勝は昨年、苦杯を嘗めさせられた仙台育英との試合。エース萬谷大輝が要所要所を抑える投球で、相手打線を2失点に抑え、8対2で大一番をものにした。

　最難関は昨年と同様、準決勝だった。

【次ページ】　「え、田代、どうして」