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Overseas ReportBACK NUMBER
大谷翔平の母校・花巻東「一つのミスも許さないでやってきた」“岩手勢38年ぶりの東北大会優勝”を決めるまで
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAyako Oikawa
posted2021/11/18 17:00
岩手県勢として38年ぶりに東北大会を制した花巻東。初の明治神宮大会への切符を勝ち取った
八戸工大一との試合、花巻東が2回裏に2点を先制し、相手にプレッシャーをかけたが、4回表にチームの要、田代が信じられないミスをした。
1アウト2塁の場面で八戸工大一の4番葛西が振り逃げで1塁へ。捕手の田代はすぐに捕球。しかし3塁へ視線を向けた後、なぜか1塁に投げた。結果的に両者セーフに。3塁に向かっていたランナーを十分に刺せるタイミングだった。
ピッチャーの萬谷、野手、そしてベンチにいた選手には「え、田代、どうして」という表情が浮かんだ。だが、最も動揺したのは田代だったはずだ。
結局、2人のランナーは生還し、試合は一気に振り出しに戻った。その後、それぞれ追加点をあげ、3対3で延長戦に。田代は焦りを感じながらも、丁寧なリードで萬谷の投球を支えた。冷静さを心がけたが、相手の攻撃を抑えるたびに、ガッツポーズが出た。
2塁ランナーがホームに還るとベンチから駆け出した
幕切れは劇的だった。
10回表、萬谷が気迫のピッチングで5球で三者凡退に抑えると、その裏、花巻東の先頭打者の千葉柚樹がショートのエラーで出塁し、チャンスが。7番菊池敏生が送りバントでランナーを進め、1アウト2塁の場面で投手の萬谷に打順が回ってきた。
「自分はそんなに打つ方ではないですが、後ろにいいバッターが控えているので、思い切り振ろうと思った」
闘志をみなぎらせて打席に入る萬谷に、田代はベンチから祈るような視線を送っていた。
「萬谷、頼む」
その気持ちに応じるかのように、2球目、萬谷はインコースに入ったストレートを強振し、打球は浅く守っていたライトの頭上を越える。
2塁ランナーがホームに還ると田代はベンチから駆け出した。気づいたら涙が溢れていた。
運命のいたずらだろうか。1年前、1点差で敗北を喫した仙台育英との準決勝も同じ石巻市民球場だった。センバツを逃した悔しさ、甲子園の地を踏めなかった先輩たちの思い、主将としてのプレッシャー。自らのエラーでピンチを招き、チームに迷惑をかけた申し訳ない気持ち。勝利への安堵。様々な想いが脳裏を駆け巡った。
校歌が流れている間も、涙が止まらない。拭っても拭っても涙が溢れ出た。スタンドで応援してくれたチームメイトたちの表情は、涙でよく見えなかった。
試合後に田代はこう声を絞り出した。
「本当に萬谷に助けられました」
目は真っ赤だった。
センバツを目指し「一つのミスも許さないでやってきた」
花巻東の選手はとにかく声を出す。
互いの長所、そして短所を熟知しており、積極性にかける選手には初球から食らいつくように、力んだり気負ったりする選手には「リラックス、リラックス」と、その選手が打席に入る前に背中を押してあげる。ほかにも試合中に点をとるため、守り切るために必要なことをそれぞれ考え、声をかけあう。試合中の連携プレーもどこに投げるべきか、全員が声を出す。練習試合、県大会など試合の重要度に関わらず、試合前には試合の目的と目標を話し合い、試合中は声を出し、考え、試合後は課題を話し合い、次に生かす。