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“世界一過激な格闘技”で稼ぎ、貧困支援に人生をかける…元ホームレスの「心優しき狂戦士」渡慶次幸平がRIZIN沖縄大会に凱旋
posted2021/11/14 17:04
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Kohei Tokeshi
「人生には、こんなこともあるのか」
10月29日、都内でも屈指の高級ホテルで行なわれた『RIZIN.32』(11月20日・沖縄アリーナ)の記者会見。出席した沖縄出身の渡慶次幸平(とけし・こうへい/クロスポイント吉祥寺)は不思議な気分に浸っていた。
無理もない。14年前、沖縄から上京したての頃、手持ちのわずか3万円というお金が尽きると、そのホテルから程近い駅ビルのトイレで寝泊まりしていたというのだ。
在りし日の青春の蹉跌を思い出しながら、渡慶次は「ふふふっ」と笑いながら呟いた。
「そこのトイレはきれいだったんですよ」
なぜ「貧困」と向き合うのか
ホームレス時代の渡慶次を知っている者からすれば、ミャンマーの格闘技『ラウェイ』で名を馳せた今日の彼の姿を想像することは難しい。令和の世では珍しい格闘技ドリーム。渡慶次は「いまの僕は貧困ではありません」と落ち着いた口調で語り始めた。
「上京してホームレスになったとき、貧困は思考を停止させると感じました。でもいまの僕は、支援してくれるスポンサーさんのおかげで心に余裕がある」
昨年は自身のファイトマネーやクラウドファンディングなどで集めた500万円をもとに、現地の子供たちに教育の場を与えようとミャンマーにふたつの学校を建設した(現在は3校目を建設中)。それをきっかけに、渡慶次は真剣に国内外の貧困と向き合うようになる。生活の拠点である吉祥寺では月に1回、子供食堂とのコラボイベントで『渡慶次幸平 駄菓子屋祭』を開く。
「ひとりでも多くの人を笑顔にしたい。だからこそ未来を作る子供を支援していく。それが自分のあるべき姿だし、そういう渡慶次幸平をみんな応援してくれているんだと思います」
何がそこまで渡慶次を駆り立てるのか。ラウェイとの出会いが直接の理由ではなかったと打ち明ける。
「教育支援に参加して、初めてミャンマーの子供たちと触れ合ったことがきっかけでしたね」
自分の夢を語れない子供たち。家族のために売春に手を染める少女もいた。渡慶次はカルチャーショックを受けた。
「それまでの僕は、なぜ戦場カメラマンはわざわざ危険な場所に行くのか、という疑問を抱くような人間でした。でも、現地に行かないとわからないし、行った人にしか伝えられないことも確かにあったんです」