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五輪連覇の斉藤仁の息子・立が“オール一本勝ち”の国際大会デビュー 《190cm、160kgの19歳》は最重量級復活の新星となるか?
posted2021/11/14 11:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
11月7日、柔道のグランドスラムバクー大会男子100kg超級が行なわれ、斉藤立が優勝した。19歳の斉藤にとってはシニアのワールドツアーのデビュー戦だったが、勝ち方でもインパクトを残した。初戦は大内刈、体落としで合わせ技一本。2回戦は内股で一本。準決勝では抑え込みで勝利し、決勝ではテムル・ラキモフ(タジキスタン)から序盤に大内刈で技ありを奪うと、支え釣り込み足で一本勝ち。幅広い技を駆使して全試合一本勝ちの完勝だった。
決勝の相手であり第1シードだったラキモフが世界ランキング11位であるように、一線級が顔をそろえていたわけではない。それでも重要なカテゴリーにある国際大会で、しかも初めての舞台で優勝した意味は大きい。
「ほっとした気持ちがいちばん、強いです」
結果を残せたことに喜びを示す。早くから期待と注目を集めてきた自覚から来る感情もあっただろう。
身長190cmの斉藤は、最重量級の中でも日本では恵まれた体格を誇る。高校時代にはインターハイを連覇し、高校3年生のときには体重無差別で行なわれる全日本選手権に史上最年少で出場して2勝をあげ、講道館杯でも3位決定戦まで勝ち進むなどシニアの大会でも活躍した。同世代では明らかに抜きん出た強さを備え、しかも立ち技の切れと威力も目をひいた。注目を集める理由は十分あった。
父は柔道界に名を残す故・斉藤仁氏。1984年のロサンゼルス、1988年ソウルと、五輪の95kg超級(ロサンゼルスを最後に無差別級が廃止され、ソウル五輪では最重量級にあたる)を連覇するなど、日本柔道の柱として一時代を担った。その教えを受けて台頭した次男の立は、なおさら注目される立場だった。
最重量級がゆえの課題
期待されるにふさわしいキャリアを重ねる一方で、課題もあげられてきた。井上康生氏から日本男子代表を引き継いだ鈴木桂治監督は「重量級特有の甘えがある」と指摘している。
斉藤は最も重い階級であり、他の階級と違い、体重に上限はない。つまり減量の必然性がない。だから、不摂生や練習不足で体重が増加しても試合に出られなくなることはない。斉藤はひと頃、怪我に悩まされていたが、その要因は体重が160kgを超えたことだとも言われる。鍛え上げての体重ではなかったために体に負担がかかって怪我をした。その点が課題だと突き付けられたのである。