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大谷翔平が「MLBの新たな歴史を作った」と断言できる2つの理由《21世紀で最大の仕事量+増える二刀流フォロワー》 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byNanae Suzuki

posted2021/10/25 17:10

大谷翔平が「MLBの新たな歴史を作った」と断言できる2つの理由《21世紀で最大の仕事量+増える二刀流フォロワー》<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

二刀流としてフルシーズンを戦い抜いた大谷翔平。その偉業は、MLBに新たな価値観を提示したという意義もある

 筆者も2018年以来、当コラムや雑誌の「Number」などでベーブ・ルースとの比較をしてきた。大谷翔平は、確かに1世紀前のルース以来の存在であろう。しかしベーブ・ルースが存命だとして「あなたは二刀流で今の大谷翔平と同じくらい活躍したんですね」と言われれば、首をかしげたはずだ。

 ルースはレッドソックスの左腕エースだった。1916年には防御率1位のタイトルもとっている。しかし打撃も良かったので打席に立つうちにホームランをたくさん打つようになって、1918、19年には本塁打王を獲得した。ヤンキース移籍後は打者一本でいくことになり、通算714本塁打、シーズン60本塁打など長くアンタッチャブルと言われる記録を樹立した。

ルースも川上哲治も二刀流は“過渡期の産物”だった

 それまでの野球は、タイ・カッブに代表される「打って走って次の塁を陥れる」競技だった。実はホームランは「珍記録」の類だったが、ルースはサク越えの本塁打を連発し、野球を「大飛球を打って、ゆっくり走って本塁に帰ってくる」競技へと変えたのだった。きっと、ルースに対して「あなたは野球の概念を変えた人ですね」と言えば、彼はにっこり笑って首肯したのではないだろうか。

 そんなルースの二刀流は彼のキャリアでは「過渡期の産物」だった。2019年、24歳のシーズンをピークとしてルースは強打者へと変貌していったのだ。

 ちなみにルースだけでなく、過渡期で「二刀流」になった選手は歴史上何人かいる。NPBでいえば1939年の川上哲治は以下の成績だった。

 対戦打者449+打席385=834
 投:18試377打81安2本46失点64四54三 率.242
(18試6勝4敗102.2回 率2.36)
 打:94試343打116安4本75打点8盗37四19三 率.338

 投手としては102.2回を投げて6勝4敗、打者では打点王と首位打者を獲得した。そして戦後は打者に専念し、打撃の神様として史上初の2000本安打を記録する。

 ただ、大谷翔平の「二刀流」は、これまでの選手とはまったく事情が異なる。

大谷は二刀流が「本業」だからこそ

 これまでの「二刀流」は、投手から打者へと「本業」が変わる時期の過渡期の産物だったが、大谷の二刀流は今のところ来季以降も続く――すなわち「本業」なのだ。だとすれば、これを過去の「二刀流」と比較するのはそろそろやめてもいいのでは、と思う。

 ベーブ・ルースが1918年に13勝11本塁打している。大谷は9勝46本塁打だから、ぜひ来季は2けた勝利を、という声もあろうが、それはあまり重要なことではないだろう。

【次ページ】 大谷に追随して二刀流を目指す選手も

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