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《8歳で復活V秘話》マカヒキの“5年勝利なし”は、16年の凱旋門賞惨敗から始まった…それでも京都大賞典を勝てた“理由”とは?
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph bySatoshi Hiramatsu
posted2021/10/13 06:00
京都大賞典で衝撃の復活Vを果たしたマカヒキ。写真はその前に最後に勝利した2016年の凱旋門賞前哨戦、ニエル賞。マカヒキは写真一番右
この年のニエル賞はマカヒキを含む5頭立てで行われた。当初、出走するかと思われていたハーザンド(イギリスとアイルランドのダービーを勝利)がアイリッシュチャンピオンS(GI)に矛先を向けたため、正直、かなり落ちるメンバー構成になった。GI馬はマカヒキただ1頭。他の4頭の中で、重賞を勝っている馬はGIII勝ちのあるミッドタームのみ。そのミッドタームも故障明けで久しぶりの実戦という事で、凱旋門賞でどうこうというためには負けていられないメンバー構成となったのだ。
ルメール「ムッチャ速い脚を披露してくれた」
9月11日、そして迎えたニエル賞当日。例年、ロンシャン競馬場(現パリロンシャン競馬場)で行われる凱旋門賞は、そのプレップレースも当然、同じ競馬場で開催されるのだが、この年はロンシャンの改修工事に伴い、シャンティイ競馬場で代替え開催。本番も、そして前哨戦もシャンティイ競馬場が舞台となった。昼前にこの競馬場に着いたマカヒキを見て、友道調教師の眉間に皺が寄った。
「今までに見た事がないくらいイレ込んでいました」
休み明け、普段とは違う慣れない環境、人や馬の出入りも多く落ち着かない装鞍所……。様々な要因が、日本のダービー馬をいつもと違うテンションにさせたと推察出来た。
「そもそも常に落ち着いているという性格の馬なので、3歳でも海外遠征が可能だと判断して連れて来ました。それがいきなり初めてというほどイレ込んで、正直、心配になりました」
しかし、曳き運動をするなどして落ち着かせると、パドックに現れる頃にはいつも通りのマカヒキが帰って来ていた。こうしてルメール騎手が跨ったマカヒキは本馬場へ向かった。
「とくに細かい指示は出しませんでした。ただ、次の凱旋門賞を見据えて、逃げる形だけは嫌かな、とだけは伝えました」
ルメール騎手はこの注文に忠実な手綱捌きを見せた。1800メートルの通過ラップが2分1秒86という超のつくスローペースだったにもかかわらずすぐには先頭に立たす事なく、3番手で我慢させた。そして……。
「ラスト600メートルあたりから徐々にスピードを上げました。スローペースだったせいで、思った以上に前の馬に粘られたけど、最後はムッチャ速い脚を披露してくれました」
レースのラスト3ハロンのラップが33秒台という速い上がりにもかかわらず、最後にマカヒキが差し切り、自身初の海外遠征をいきなりの勝利で飾ってみせた。
凱旋門賞での惨敗が、“長いトンネル”の始まりだった
凱旋門賞へ向けて絶好のスタートを切ったかと思えたマカヒキだが、一気に相手の強化された本番では力の違いを痛感させられる結果が待っていた。この日も前哨戦の時と同じように競馬場へ着くなり少しイレ込む素振り。ひと声吠えると立ち上がるような場面もあった。しかし、レースの結果は“それが影響しただけではないだろう”と思われる厳しいモノだった。