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「藤井さんの終盤力はNo.1だからこそ」 豊島将之vs藤井聡太《19番勝負最終章》竜王戦を永世名人・谷川浩司の言葉から展望
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by日本将棋連盟
posted2021/10/07 17:15
王位戦第3局の豊島将之竜王と藤井聡太三冠、立会人の谷川浩司九段。「19番勝負」の最後を飾る竜王戦は必見だ
「AIの評価値が下がるような変化の中にも戦えるものはあるので、そういうものも調べていました」
これは渡辺名人が昔から採っていた手法だが、豊島も興味が出てきたのだろう。そういう試行錯誤も、対藤井戦の序盤戦に好影響があるはずだ。
谷川九段が考える「AIが棋士に与えた影響」
AIの使い方も確立されているわけではない。高価なデスクトップパソコンの購入や、ディープラーニング系のソフトの導入をどうするかなど、皆が頭を悩ませている。
AIが棋士に与えた影響について、谷川九段はこう語る。
「現代のトップ棋士というのは、一様に謙虚ですよね。みなさんの人柄もありますが、一つにはやっぱりAIがあるからでしょう。私たちの時代は、将棋界で一番強い棋士=世界最強という意味でした。ただ今の棋士は例えば八冠を制覇したとしても、それより強い存在がいる。だから謙虚にならざるを得ないのでしょうね。終わりのない戦いをさせられているようで、本当に大変だなと思います」
もちろんAIが将棋を解明したわけではない。それだけ将棋は奥が深いゲームであり、棋士たちが頭を垂れているのはAIではなく、将棋というゲームの存在に対してだろう。
“2カ月で25局”を経験、谷川九段が感じる今と昔の違い
竜王戦は2日制で、持ち時間は8時間だ。王位戦と同じ条件なので、すでに経験している両者からしてみれば、対局条件に関して特筆すべきことはないだろう。
ただし、スケジュールは気にかかる。両者とも今夏はなかなかの過密日程で、今後も続くことが予想される。竜王戦以外に短期勝負の王将リーグ、そして順位戦もある。特に藤井は対局数が多いB級1組に所属しているので大変だ。
谷川九段は2カ月間で25局という歴史的対局数を誇る棋士だ。その年は12月31日の大晦日にも対局がついていたほどである。ただそれでも、現代とは事情が異なるという。
「タイトル戦の連戦で、対局初日はまだ疲れが取れていなくて、2日目にようやく全開になることもありました。でも当時は、初日の進行がいまよりも緩やかだったんですね。いまはそうもいきません。いまの棋士のほうが、対局前の準備が大変になっています。移動から移動を続けてると、AIの力を借りることができないので、準備面での厳しさはあると思います」
藤井は遠隔操作で手持ちのスマホから自宅のパソコンにアクセスできるが、それでも自宅で扱うようにはいかないという。
今期の七番勝負の日程を見る限り、極端に間隔が空いていたり、詰まっていたりするところはない。やはりポイントは盤上、それも王位戦と叡王戦で敗れた豊島がどういう対策を練ってくるかだ。藤井は勝っているのだから、普通に研究して待ち受けるのが自然だろう。