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<王者の戦術論>フランス代表監督デシャンが明かすW杯アルゼンチン戦の深層「メッシの力を弱め、混乱に陥れる」戦略とは
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フランス・フットボール誌France Football
photograph byL’Équipe
posted2021/10/06 06:00
98年フランスW杯ではキャプテンとして黄金期のチームを牽引したデシャン。12年からフランス代表監督を務めている
またメッシと1対1で対峙するのはできる限り避ける。彼が後ろに下がっているときでもそうだ。彼の抜き去る能力とスピードはそれほど脅威だった。右サイドを離れるとき、メッシはチームメイトとワンツーを交換して――多くの場合それはトップに位置するストライカーだったが――守備のズレを作り出してフィニッシュまで持っていく。あるいはごく狭いスペースに縦パスを入れる。
そうなることを絶対に避けねばならない。だがどうやって?
NG(カンテの愛称)ともうひとりが常に彼のゾーンをケアすることで、プレーを妨げるか遅らせる。もうひとりは彼がプレーする位置によってブレイズ(・マツイディ)かディフェンダーのひとりが担当する。そして逆のサイドに彼が動いたときには、ポール(・ポグバ)がケアするようにした。
キックオフ直前の言葉《メッシが9番ならば都合がいい》
試合の先発リストを見ると、メッシが9番の位置でプレーするのは明らかだった。事前に予想したオプションのひとつで、バルサでも代表でも彼はしばしばそこでプレーしていたが、実際には大きな驚きだった。
試合前夜に先発出場予定の11人を集めてミーティングをおこなうのが、試合に向けての最初のルーティーンだ。そこではメッシが大きな問題になったが、それだけではなかった。どうすればアルゼンチンを混乱に陥れられるか、さまざまな細かい修正事項について選手たちは議論を重ねた。
私が彼らに言ったのは、中盤のポジションを少し変えることだった。すなわちNGが中央左寄りでプレーし、ポールが中央右にポジションをとってNGがメッシの近くに寄れるようにする。ポールはキリアン(・ムバッペ)と同じサイドでプレーする。それによってキリアンが縦に長いパスを受けやすくなり、迅速に相手を危険に陥れるポジションをとれる。それが最善であると私には思えた。
左サイドでも同じ攻撃はできるが、その場合はパスがダイアゴナルになるのでプレーの距離は広がる。守備面でのセキュリティを維持し続けたうえで、自分たちの攻撃力を損ないたくはなかった。
メッシが9番である限り、われわれはうまく対処できる。プレーは予測可能で、そう厄介ではないからだ。いったん後ろに下がっても、彼は再び攻め上がってゴールを背にしてポジションをとる。そのときは自由にプレーできない。ふたりのセンターバック(バランとウムティティ)とNGが、ゾーンをしっかりとケアしているからだ。
さらにアルゼンチンは、相手の裏を突く攻撃も仕掛けられない。ディマリアは足元にボールを収めてプレーするタイプであるからだ。守備面で変化の可能性があるとすれば、それはリュカ(・エルナンデス)がメッシをケアしなくてよくなったときだった。
試合直前のミーティングで私は幾つかのディテールを再確認した。それは例えばボールを奪った際のふたりのアタッカー――オリビエ(・ジルー)とアントワンの位置関係であり、強調したのは自分たちの長所である攻撃のポテンシャル――オリビエがポストになりアントワンが相手のライン間を動きキリアンが縦を狙うことで生まれる攻撃のバラエティと補完性を活用することだった。アルゼンチンは1対1に局面を限定して守るのを好むが、われわれのスピードがあれば彼らを混乱に陥れられるとわかっていた。 <後編へ続く>