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<王者の戦術論>フランス代表監督デシャンが明かすW杯アルゼンチン戦の深層「メッシの力を弱め、混乱に陥れる」戦略とは

posted2021/10/06 06:00

 
<王者の戦術論>フランス代表監督デシャンが明かすW杯アルゼンチン戦の深層「メッシの力を弱め、混乱に陥れる」戦略とは<Number Web> photograph by L’Équipe

98年フランスW杯ではキャプテンとして黄金期のチームを牽引したデシャン。12年からフランス代表監督を務めている

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 1946年の創刊以来、週刊誌として発売されてきた『フランス・フットボール』誌(1974~82年、1997~2013年は週2回刊行)は、ご存じのようにこの6月から月刊誌となった。月刊化の理由は、日本同様にフランスでも深刻化している出版界を巡る状況の変化だが、これにより紙面も大幅にリニューアルされ、月刊誌ならではの新たな企画がいくつか立ち上げられた。

 そのひとつが《ホワイトボードに書かれた指示》である。歴史上の節目となったビッグマッチを、当事者である監督が振り返って解説する。記念すべき第1回は、ディディエ・デシャン(フランス代表監督)が、2018年ロシアW杯ラウンド16の4対3で勝利したアルゼンチン戦を振り返った。

 フランスの2度目の世界制覇に向けて鍵となった試合であり、戦術とコレクティブな力、ピッチ内外の熱狂、幾つかのミス、攻撃面での卓越した効率が同時に現れた試合でもあった。パトリック・ウルビニ記者によるデシャンの自戦解説を、前後編2回にわけてお届けする。(全2回の1回目/#2はこちら)

(田村修一)

試合へのアプローチ《どうやって彼らを混乱させるか?》

 対戦相手がどこになるかは事前にある程度わかっていた。だが試合への準備時間は3日しかなく、アルゼンチンのすべての情報を改めて整理して選別し、何が重要であるかをハッキリさせた。

 グループリーグの3試合を、アルゼンチンは異なるシステムで戦った(註:初戦のアイスランド戦は4・4・2、クロアチア戦は3・4・3、ナイジェリア戦は4・3・3)。選手の入れ替えも頻繁で、スタメンが定まっていない印象だった。だからできる限り精緻に分析してビデオに落とし込み、選手たちと話し合いながら力関係を正確に把握する前に、まずスカウティングを担当したスタッフたちと感覚を共有することが重要だった。

 どうすれば最も効果的に彼らを危険に晒せるか。どうすれば彼らにとって厄介な問題を作り出し、混乱に陥れることができるか。

 コレクティブな面でアルゼンチンにさほどの力はないが、彼らにはメッシがいる。メッシの創造性と才能、アグレッシブさが彼らの最大の武器だった。そこからすぐにふたつのアイディアが浮かんだ。まず守備では、アルゼンチンは背後に長いボールを送られ、スピード勝負を強いられたときに脆さを見せる。ボールを失ったときの配置に難があり、しばしば攻撃と守備のふたつのブロックに分断されバランスを失っていた。個の面では、彼らには屈強で戦いに強い選手たちがいたが、このW杯で多くのチームがそうであったように、迅速なトランジションを相手に仕掛けられるとしばしば混乱に陥った。それらの弱点をどうしたら有効に突くことができるか。

【次ページ】 プラン・アンチメッシ《マスチェラーノ、バネガとの関係を断ち切る》

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