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本塁打、打点は減少も…“仕事人”浅村栄斗は動じない――その真価を表す「ある数字」《西川、柳田を抑えてパ・リーグ1位》
posted2021/09/28 11:05
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
バットがしなる。
鋭いスイング。強烈なインパクトから解放された白球が威勢よく舞い上がり、放物線を描きながらスタンドまで到達した。
9月12日のロッテ戦。6回にフランク・ハーマンから放った2カ月ぶりの本塁打は、楽天・浅村栄斗の「らしさ」が詰まっていた。
力感なくバットをトップの位置へと運び、打球にラインドライブがかかり過ぎないよう、しっかりとベルト付近でボールを捉え、大きなフォロースルーでさらに力を伝える――。浅村とクリーンアップを形成することが多く、現在打点王争いのトップを走る島内宏明らチームメートが参考にするスイングがようやく戻ってきた。
この試合から3試合連続本塁打。周りは「復活」などと言うが、いくら完璧なスイング、理想のアーチを描けたとしても、慢心しないのが浅村という打者でもある。
数字だけ見れば“不振”に思えるが…
好不調を問わず泰然自若に振る舞う。そんな男の隙の無さに触れれば、誰だってそう思うはずである。
「どんなに絶好調でも1日、1打席、1球で感覚とか調子がコロッと変わるのが、本当に野球の難しいところなんで。勢いでやれる時期はありますし、耐えなければいけない時期もありますけど、『打てているから大丈夫』とか『そのうち打てるようになるだろう』とか、そんな甘い考えはないですね」
浅村からすれば、今季はむしろ後者。「耐える」シーズンなのかもしれない。
2割7分2厘、14本塁打、55打点(成績は9月26日現在)。
打率こそ例年とさほど変わらないが、現時点で本塁打と打点は昨季の半分程度。先のロッテ戦のアーチから浅村らしさが戻りつつあるとはいえ、後半戦開始後30試合で2割2分9厘、4本塁打、11打点。成績に関して言えば不振を印象付けてしまっている。
数字が物語るように、浅村は本来のパフォーマンスを出し切っていないかもしれない。
だからといって、これが浅村のすべてではない。楽天イーグルス公式アプリ『At Eagles』が提供するデータによると、真ん中低めと外角低め以外は全コースで3割をマークしており、対応力の高さを示せている。ボール球の打率が1割台であることが、現在の数字に直結しているという見方もできるが、裏を返せば「ストライクゾーンに投げたらやられる」という、相手ピッチャーの心理を示しているとも言える。
何より一喜一憂しない強打者は、打てなくても役割を果たす。だからこそ、打線の柱としてチームから全幅の信頼を得る。