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大谷翔平と日本人の世界ヘビー級王者。本塁打王まっしぐらの途上で進化する必殺の投球術<MVP当確?> 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2021/08/28 06:01

大谷翔平と日本人の世界ヘビー級王者。本塁打王まっしぐらの途上で進化する必殺の投球術<MVP当確?><Number Web> photograph by Getty Images

大谷は8月27日時点で、19試合に登板。8勝1敗、防御率は3.00。オールスター後に限れば6試合に登板し4勝を挙げている

 過去の受賞者を振り返ってみると、(ストライキや疫病などによる短縮シーズンを除いて)年間の投球回数が最も少なかった先発投手は、2018年ア・リーグのブレイク・スネル(180回3分の2)だ(リリーヴァーの受賞者なら、もちろんもっと少ない)。

 それでも、投票する記者がいてもおかしくはない。ア・リーグの有力候補は、ゲリット・コール、ランス・リン、ロビー・レイといったところだが、7月以降の投手・大谷は、彼らに劣らぬほど内容が充実している。

 なによりも、スライダーの精度が上がった。今季前半の彼は、スライダーでストライクを取るのに苦労していた。従って、スリーボールになると判で押したようにフォーシームを投げ、それでも打者を歩かせるケースが多かった。だが7月以降の彼は、スリーボールからきわどいコースにスライダーを多投し、空振りや見逃しを奪うケースが増えているのだ。

 そもそも、スリーボールのカウントに追い込まれるケースが激減した。だれしも指摘するように、7月6日~8月18日の大谷は、6試合で40イニングスを投げ、自責点7、奪三振37、与四球4、被打率.183という抜群に安定した成績を残している。

 4月4日~6月30日の12試合で60イニングスを投げ、自責点24、奪三振83、与四球35と揺れていたことを思えば、別人のようなピッチングだ。《ストライクを投げろ。スピードに変化をつけろ。だらだら投げるな》とは名コーチとして知られたレイ・ミラー(2021年逝去)の哲学だが、いまの大谷は、その教えを実践しているかに見える。

当代随一のウィニングショット

 加えて彼には、スプリッターという必殺の武器がある。粘着物質の使用が厳禁されている現在のメジャーリーグで、これに匹敵する強力なウィニングショットといえば、ジェイコブ・デグロムやコービン・バーンズのスライダーぐらいか。

 こう見てくると、大谷翔平は、投打ともまだまだ発展途上にある。(打者として)三振数が年間200に届きかねないことや、(投手として)投球術を磨く余地が残されていることなどは、どちらもその裏返しだろう。

 怪我に見舞われることなくキャリアを重ねれば、大谷の未来はさらに開けていくのではないか。さしあたっての通過点は、メジャーリーグ通算100号本塁打だろう。これも、あと13本打てば、今季中の達成が可能になる。本塁打王獲得のおまけとして、この里程標を風のように通過してもらいたいものだ。

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