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大谷翔平と日本人の世界ヘビー級王者。本塁打王まっしぐらの途上で進化する必殺の投球術<MVP当確?>
posted2021/08/28 06:01
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
もし万が一、残りのシーズンを欠場しても、大谷翔平のリーグMVPは堅いのではないか。
日本ではもちろん、アメリカでもそんな声がしばしば聞かれるようになってきた。
無理はない。8月24日現在、大谷は本塁打(40)、長打率(.634)、OPS(1.001)でリーグトップを走り、投手としても18試合に先発登板し、8勝1敗、防御率2.79の好成績を残している。
日本人選手でMVPを獲得したのは、2001年のイチローだけだ。サイ・ヤング賞の受賞投手はいないが、最多奪三振のタイトルなら野茂英雄が2度、ダルビッシュ有が1度獲得している。
ただ、本塁打王にはだれも近づけなかったし(2004年の松井秀喜もア・リーグのトップ10に入れなかった)、今後も縁がないだろうと思われていた。
そう、日本人ボクサーは世界ヘビー級王者になれないという定説があるように。
ところが、大谷翔平は、日本人ボクサーが世界ヘビー級王者になるより早く、メジャーリーグの本塁打王を獲得しようとしている。
首位打者や盗塁王ではなく、本塁打王なのだ。のみならず、OPS1位や打点王という快挙も、それに付随する可能性がある。
くどいようだが、この凄さは強調しておきたい。大谷翔平は、ベーブ・ルースやモハメド・アリと同じ地平で戦っているのだ。
大谷を褒めているばかりでは芸がないので、今回はヤンキースの逆襲とパドレスの後退を比較してみようと思ったのだが、大谷がメジャーリーグで本塁打王を取るのは「日本人ボクサーが世界へビー級王者になるようなもの」という比喩だけは、言い忘れる前に書き残しておきたかった。
投手・大谷の7月以降の進化の理由
大谷の超絶的な活躍を駄目押ししておきたかった理由は、もうひとつある。
投手・大谷翔平が7月以降、着実に進化を遂げつつあることだ。現在、投球回数は100イニングスちょうど。エンジェルスの今季残り試合が35だから、あと5試合に登板しても、規定投球回数(年間162イニングス)にはおそらく届かないだろう。サイ・ヤング賞の獲得は、現実問題としてむずかしい。