野球クロスロードBACK NUMBER
公立・長崎商が県大会から「九死に一生ばかり」でも甲子園で躍進できたワケ〈佐賀北「がばい旋風」を彷彿とさせたが…〉
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2021/08/26 17:03
8月25日の夏の甲子園、長崎商-神戸国際大付にて、サヨナラ負けとなった長崎商ナイン
殊勲者になり損ねたこの2年生を責める者は、誰もいなかった。それどころか、3年生はこの激戦を誇るように背筋を伸ばしていた。
主将の青山は「大坪がいなかったら、ここまで来ていないんで」と気遣い、こう続ける。
「甲子園でははつらつとプレーできました。ベンチ内でも前向きな声しか出ていませんでしたし、県大会より実力以上の力を出せた」
まるで何年も年輪を重ね、成熟を遂げた大木のような3試合だった。それは、監督の西口の感嘆交じりの評価を聞けばわかる。
「非常に成長を感じました。1回戦から攻めの野球をやってくれて、どんな場面になっても諦めない、下を向かない、ひと言も弱音を吐かない。試合開始からゲームセットまでそれを貫いてくれました。生き生きとした表情で野球をしている選手たちが頼もしかった」
まるで、指揮をする自らがファンであるような口ぶりである。それだけ、今年の長崎商は魅力的だったし、何かをやってくれそうな不思議な魔力を秘めたチームでもあった。
甲子園に出る、全国で勝ち上がるためには、「九死に一生」のようなゲームが最低でも1試合は必要だと、よく言われる。
長崎商は県大会だけで、それを3度も経験してきた。3回戦と準々決勝は逆転サヨナラ勝ち。今春のセンバツに出場した大崎との決勝戦では、9回2死から追いつき、延長10回に勝ち越して5年ぶりの甲子園を決めた。
「1試合1試合、みんなで強くなっていけた」
戦力的な原動力を挙げれば、投手陣の働きが真っ先に挙げられる。
主に右のオーバースロー・城戸と右のサイドスロー・田村琉登で「ダブルエース」体制を敷き、1試合をふたりで抑える布陣を形成した。西口は「同学年でエース級のピッチャーがふたりいることは珍しい。今年はたまたま」と謙遜するが、先発の2枚看板より継投を採用した監督の決断が光った。
甲子園では、ダブルエースの好投を援護するように打線が躍動した。
初戦の熊本工戦で13安打8得点。2回戦では、初戦でセンバツ準優勝校の明豊をシャットアウトした専大松戸投手陣から、15安打6得点を挙げ快勝した。県大会の打率2割9分3厘だったチームが、2試合連続2桁安打と打撃開眼を果たしたのである。
西口は「雨で順延が多くて、室内練習場でひたすら打っていたからじゃないですか?」と茶目っ気を出していたものだが、打線が活発となった背景もしっかりと存在する。