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公立・長崎商が県大会から「九死に一生ばかり」でも甲子園で躍進できたワケ〈佐賀北「がばい旋風」を彷彿とさせたが…〉
posted2021/08/26 17:03
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
空気が変わった。
この後、試合が動くだろうと誰もが確信するように、甲子園がどよめく。
7回、神戸国際大付に2点を勝ち越され、2-4で迎えた8回表。長崎商のベンチが動く。
西口博之監督が代打に送ったのは、主将の青山隼也だった。
「本人の努力を知っていますから。リーダーシップがありますし、中盤以降にチャンスがあれば出そうと思っていました」
背番号はレギュラーナンバーの「3」ながら、長崎県大会から多くの時間をベンチで過ごしてきた。そんな主将だからこそ、わかる。
「後ろに回せば、絶対に還してくれる」
69年ぶりのベスト8を目前にして…
青山が6球粘って四球を選び出塁すると、送りバントで得点圏にランナーを進める。さらに代打の久松太陽がセンター前安打を放ち、1番打者の2年生・大坪迅もセンターへはじき返し1点。直後に相手守備のミスに乗じ、すぐさま同点に追いついた。
「公立最後の砦」長崎商と春夏連続で甲子園出場の強豪・神戸国際大付による一戦は、ここから土俵際での踏ん張り合いとなった。
同点の9回裏、今度は長崎商が1死満塁、カウント3ボールと絶体絶命の窮地を迎える。ここで、エースの城戸悠希が「コース関係なく、思い切り腕を振ろう」と強気で攻め、3球連続ストライクで三振。続く打者もライトフライに打ち取り、攻撃に奮起を託した。
エースの粘りが呼び水となった延長10回、代打からそのままファーストの守備に就いていた青山が、先頭打者として安打で出塁。送りバントで二塁に進むと、2死からまたも大坪のレフトへの三塁打で勝ち越した。
しかしその裏、長崎商は再び2死二、三塁のピンチを招く。迎える打者は、この試合3安打1本塁打と当たっている4番の西川侑志。エース・城戸は、腹を括った。
「デッドボールでもいい。絶対に逃げない。強気でインコースを攻めよう」
決着は初球でついた。ほぼ真ん中のツーシームを引っ張られる。強烈なゴロはサードの正面を突いたかに思えたが、目の前でバウンドが変化しレフトへ。外野からの送球を中継したサードのキャッチャーへの送球がショートバウンドとなり、逆転のランナーが生還。長崎商は69年ぶりのベスト8を目前にしながら、サヨナラで沈んだ。
「不思議な魔力」を秘めたチームだった
泣き崩れていたサードは、ゲーム終盤に何度もチームを救った2年生の大坪だった。
「勝てると思って、焦ってしまいました。悔しさしかないです」