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日本製車いすは“世界最強”イギリス選手団が「持ち帰る」ほど高性能…車いすバスケ日本代表メカニックが明かす「製造のウラ側」
posted2021/08/25 11:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
AFLO
『Sports Graphic Number』で好評連載中の「スポーツまるごとHOWマッチ」を特別に公開します! <初出:1028号(2021年6月3日発売)、肩書きなど全て当時>
“コート上の格闘技”と呼ばれ、高い人気を誇る車いすバスケットボール。その勝敗は選手の力量はもちろん、車いすの性能にも左右される。現在、世界の頂点に立つのはイギリス。2018年世界選手権で男子優勝、女子準優勝に輝いた強豪の足は日本製の車いす、松永製作所の「B-MAX」に支えられている。
松永の製造部課長であり、日本代表のメカニックも務める上野正雄さんが説明する。
「B-MAXは36万円ですが、代表レベルになると障害や体格などに合わせた細かなカスタマイズを行ないます。それを一般競技者がやろうとしたら、50から60万円になるかと」
1974年の創業以来、主に病院用の車いすを手がけてきた松永が競技用に着手したのは2002年。他社に遅れての挑戦だったが、'16年リオ五輪では日本代表12人中8人を松永ユーザーが占めた。それは溶接で固めずボルトで留める工法と、メインのパイプに丸型ではなく楕円型を使うことで生まれる、松永独自のしなやかさや弾性が評価されたからだ。
だが、しなやかな車いすでも強豪の壁は越えられなかった。代表に同行し、世界中を転戦する中で上野さんは弱点に気づく。
「ひと言でいえば、瞬発力に欠けるわけです」
しなやかさと瞬発力を備えた車いすに世界も驚愕
上野さんは改良を重ねると同時に、大会のたびに各国の車いすを入念にチェックした。