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「凶器は模範六法」「伊製高級スーツでリングイン」異色の“東大卒”弁護士・川邉賢一郎がプロレスラーになるまで 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2021/08/18 11:00

「凶器は模範六法」「伊製高級スーツでリングイン」異色の“東大卒”弁護士・川邉賢一郎がプロレスラーになるまで<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

弁護士レスラーとして活動する剛馬。東大卒の彼がリングに上がり続ける理由とは?

東大卒→司法浪人中にかかってきた“オファーの電話”

 リングの上で拍手と笑いを浴びる快感を知った川邉。5年かかったが東大を卒業し、司法浪人生活に入る。そこにかかってきたのが、DDT入りしていた本多からの電話だった。DDTがかつての名物団体ユニオンプロレスを復活させる。ついては所属選手として出てくれないかという誘いだった。 

「いや、完全に勘違いしてました。一発だけの企画モノみたいなイベントで、僕はそこにちょっと出てくる有象無象みたいな、出オチ要員なのかなと。だいたいHWWAは学生プロレスの中でも特にお笑い色が強くて、他の大学と合同でイベントに出た時に“俺らもうちょっと練習したほうがよくないか”って話になったくらいですから。学生でそのレベルなのに、まともにプロに誘われるわけがないと」

 ところが旗揚げ会見に行ってみると、木高イサミや石川修司たちは本気も本気だった。ここでものにならなかったらプロレスをやめる、そんな覚悟を彼らは持っていた。川邉はすぐさま、DDT社長の高木三四郎に謝ったそうだ。それでも団体は動き出していた。

 プロレスラー生活は気まずいことだらけだった。リングネームは竜剛馬のまま。学プロと同じ名前でプロになったのは自分と男色ディーノくらいだろうと言う。しかも練習生としての下積み期間もなく、いきなりのデビュー。長く練習生をしている人間に睨まれている気がした。団体の合同練習にも、自分なんかが正式メンバー面して出ていいのか分からない。しかし行かなければ行かないで「なんで練習に来ないんだ!」と怒られた。

「他に同じ立場の人がいないから、立居振る舞いが分からなくて。怒られては軌道修正して、探り探りやってた感じです。練習生でもなかったし地方巡業の経験もない。レスラーとしてちゃんとした鍛錬を積んでいないわけです。試合の日は憂鬱でしたね」

「プロレスで司法試験のストレスを打ち消していた」

 まして立場としては司法浪人、東大法科大学院生だ。そもそも勉強しろという話ではある。それでもやめなかったのは、プロレスで得る刺激を失いたくなかったからだ。

「毎日、コンビニの店員としか会話しないみたいな生活でしたから。プロレスが本当に刺激的で。試合をする痛みやストレスもありますけど、それで司法試験のストレスを打ち消すみたいな感じでしたね。

 続いたのはユニオンだったからだとも思います。表も裏もシッチャカメッチャカだったんですよ。大会が近づいても何をやるか全然決まってないみたいな。そんな状態だから、僕みたいなのでもいられたのかなと。キッチリした団体だったらいられなかったでしょうね。僕は僕で、12月になると“司法試験のために欠場”するわけです、公式に。そんな団体ほかにないですよ(笑)」

【次ページ】 DDTの顧問弁護士を務めながら、伊製高級スーツを着てリングへ

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