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ハッキリ言って“弱い”けど…東大卒・弁護士レスラー剛馬(39)が語る〈敗北の極意〉「プロレスと裁判に共通するのは…」
posted2021/08/18 11:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
はっきり言ってしまえば、プロレスラー・竜剛馬は“弱い”。しかし弱くても生きる道がないわけではない。屈強な、あるいは多彩な技巧を持った選手たちに翻弄される姿が絶妙なのだ。
「だから僕の試合はシングルマッチよりタッグマッチ、2vs.2よりも3vs.3のほうが面白いと思います。僕を“転がす”人が多いほどいい(笑)」
しかし、その転がされている弱小レスラーは他の誰よりも高学歴で高収入。口だけはやけに達者で、かと思うと六法で殴ってくる。噂を聞きつけて、数年前からは三省堂が模範六法を送ってくれるようになった。“用具スポンサー”がつくのだから、それはやはりプロレスラーとして価値があるということだ。
剛馬が弁護人、レフェリーが裁判長の「逆転プロレス裁判」
BASARAでは「逆転プロレス裁判」というヒット企画も生まれた。人の技を勝手に使う窃盗罪、心にもないマイクアピールをする詐欺罪などで“法廷闘争”が展開され、竜剛馬が弁護人、レフェリーが裁判長。「異議あり!」が連発されつつ、最終的には闘って有罪か無罪かが決まる。
しゃべり9割といった感じだがファンは「真面目に試合してくれ」などとは言わない。ゲラゲラ笑って見ている。誰が言ったか、BASARAは少年マンガ(誌)。熱血もあれば徹底的にくだらないギャグもあって、そのトータルな魅力で勝負する。スポ根の中にギャグが入るのだって普通のことだ。「ウチはこういう団体なので」と方向性を押し付けるようなことがないから見ていても気分がいい。メインイベントのタイトルマッチであっても、必ずしも“感動”に着地するとは限らない。「いい意味で、BASARAの選手はみんな子供なんです」と剛馬は言う。
「選手個々にしても試合にしても、団体が細かく方向性を決めているわけじゃないんです。それぞれが自由に好き勝手やっている。逆転プロレス裁判だって、ちゃんと企画を考えたわけじゃない。思いつきでカード表にそういうネーミングが入っただけですよ(笑)。で、後から何をするか考える。
BASARAは明るい選手ばかりで、内にこもるタイプがあんまりいない。それもいいんでしょうね。何があってもカラッとしてるんです。プロレスラーはみんな試合を楽しんでますけど、僕らは突出して楽しんでる気がします」
妻からは「お前は外で何やってるんだ」
プロレス活動に難点があるとすれば、トランザム★リュウジとの対戦でリングネームから「竜」を剥奪されて「剛馬」になってしまったこと。本名でもなければパロディでもなくなって、あまりにも説明しにくいため名前については「見て見ぬふり」でやり過ごしている。そんなレスラーも他にはいないだろう。
もう一つの難点は、妻の反対で週末及び地方の大会には参加できないことだ。
「子供はまだ7歳と4歳で手がかかる、なのにお前は外で何やってるんだということですよね。ましてそれで大金を稼ぐわけでもない。妻からすれば、こっちは家で大変なのに......となりますよ。お前は早く帰ってこないどころか、なんか楽しそうじゃないかと(笑)」