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吉田輝星のような「1人で投げ抜き甲子園出場」は今や2校だけ… 179球完投の2年生エースと公立校の“宿題”とは〈徳島・阿南光〉

posted2021/08/17 06:00

 
吉田輝星のような「1人で投げ抜き甲子園出場」は今や2校だけ… 179球完投の2年生エースと公立校の“宿題”とは〈徳島・阿南光〉<Number Web> photograph by Kyodo News

阿南光の2年生エース森山暁生は沖縄尚学相手に179球、8失点も投げ切った

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間淳

間淳Jun Aida

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 16日の第3試合、阿南光-沖縄尚学。0-3の4回裏、阿南光の森山暁生は1死から3連打で満塁のピンチを招いた。

 試合展開を考えれば、次の1点は致命的となる。迎えるのは沖縄尚学の中軸だった。ギアを上げ、3番・仲宗根皐を直球で見逃し三振。4番・知念大河には8球を要し、スライダーで空振り三振。無失点でしのいだ。だが、投球数は、すでに103球に達していた。

「このペースだと200球までいくかもしれないと思いましたが、どんな形でも自分で投げ切ると決めていました」

 マウンドのエースは覚悟を決めていた。中山寿人監督も思いは同じだった。

「アクシデントがない限りは、森山で最後までいくつもりだった」

 万が一の事態に備え、ベンチスタートの背番号5をつける佐々木春虎にブルペンで投球練習するよう指示を出したのは、8回裏の守備が始まる前。この時点で、森山の投球数は157球だった。一方、エース當山渚が完封ペースだった沖縄尚学は、7回までに2人の投手がブルペンで肩をつくっていた。

投手が「1人」なら相手は対策を練りやすい

 森山は徳島大会を1人で投げ抜いた。

 今夏の甲子園出場校で、地方大会を1人の投手で勝ち上がったのは、阿南光以外に高川学園(山口)しかいない。

 かつては当たり前だった、エースが全ての試合を投げる光景は消えつつある。2018年大会決勝で、1人で投げ抜いた吉田輝星の金足農と、柿木蓮や根尾昂に横川凱を擁した大阪桐蔭の対戦は1つの象徴だった。

 徳島大会は参加校が比較的少ないため、阿南光が頂点に立つまでの試合数は4試合。ただ、同様に地方大会で4試合を戦った敦賀気比(福井)と米子東(鳥取)は、どちらも3人の投手がマウンドに立っている。

 地方大会で高川学園と同じ5試合を勝ち抜いた高校の中には、投手を5人、6人と起用したところも少なくない。球数制限に加えて、甲子園期間にエースの調子が必ずしも万全ではない可能性もあるため、複数の投手で地方大会を戦うのは全国の主流となっているのだ。投手が1人だけであれば、相手チームは対策を練りやすい。さらに、1試合で打席に立つ回数が増えれば攻略の可能性は高くなる。

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