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柔道・井上康生とバスケ・ホーバスHC、「目標設定からの逆算」で五輪を好成績に導いた指導者2人、“もう一つの共通点”とは 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2021/08/15 11:02

柔道・井上康生とバスケ・ホーバスHC、「目標設定からの逆算」で五輪を好成績に導いた指導者2人、“もう一つの共通点”とは<Number Web> photograph by JMPA

今年9月での退任が決定した井上監督(左)。ホーバスHCは「米国にいる家族のもとで少し体を休めたい」と一旦代表チームからは離れる

 日本での長年の経験から日本選手の特徴を把握したホーバス氏は2017年、日本代表ヘッドコーチに就任。東京五輪での目標を金メダルに設定すると、それをかなえるために、身長で見劣りする日本が勝てる方策を模索した。

 行き着いたのは、攻撃面では、ゴールに最も近いセンターに頼るのではなく誰もがスリーポイントシュートを打てる「スモールボール」だった。ゴール近くからのシュートで得点を目指すのではなく、外から狙えば身長差をカバーしやすくなる。準決勝、世界ランク10位の日本に対し5位と「格上」のフランス戦で、スリーポイントシュートの成功率が相手の倍近かったことが勝因となったのは象徴的だ。一方、ディフェンスでは試合中激しくプレスし、あるいはトラップディフェンスなどを用いた。身長が低くても運動量は鍛えて増やせるし、組織だった守備に身長は影響しない。それらを実行するために激しい練習も積み重ねてきた。

 柔道の場合もバスケットボールの場合も、達成すべき目標を掲げ、それを実現するための戦い方を考え抜いていた。対戦相手を知り、決してやみくもではなく、そこに行き着くためのトレーニングや練習方法を考えて実行する姿勢があった。目標への道筋は合理的で、激しい練習も選手たちはいとわなかった。

 ただ、合理性だけが成功をおさめた理由ではない。情報やデータをもとにした練習、相手の分析、戦術を考えること、これらは他の指導者も当然行なっている。

選手の言動に見えた監督との関係性

 では何が好成績をもたらしたのか。それは選手との信頼関係だ。この点こそ、両監督の共通点として特筆すべきポイントだ。

 リオ、東京と連覇を果たした大野の言葉が印象的だ。

「井上監督のもと、リオ、東京と2大会で連覇を達成できました。これは柔道人生のいちばんの誇りです」

 混合団体の表彰式のあと、今大会で退任する井上監督を選手たちが胴上げしたのもまた、どのような関係を築いていたかを明確に表していた。

 ホーバス氏も同様だ。

「誰よりも、選手たちの力を信じてくれていました」という町田瑠唯をはじめ、選手たちの言葉には強い信頼が込められていた。

 合理的な強化計画、目標へ向けての戦略を立てることは簡単ではないが、それだけで結果を出せるわけでもない。練習計画の意味を理解し、現場で実践することこそ重要で、そのためには選手に受け入れられ、理解される必要がある。選手が100%その方向性を信じ、全力で取り組むことが結果につながる。

 信頼を得るための方法は競技や指導者によって千差万別。ただ、信頼関係こそ大切であることを伝えたのが、今大会の柔道でありバスケットボールであった。

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