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じつは…10000m新谷仁美はスパイクすら履けない状態だった<3月のTBSオールスター感謝祭で見せた素晴らしいタイム>
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byTakeshi Nishimoto
posted2021/08/06 20:01
東京五輪8月7日に行われる陸上女子10000mに出場する新谷仁美
森岡 ただ、いつ収録をしたのかわからないけれど、オールスター感謝祭の走りは、いいと思った。会場となった東京ドイツ村のコースは1周700m×5周の3500m。ちょうど350mの位置に料金所があるのですが、そこまでは下って、そこを過ぎると上りになる。トラックではないので多少の誤差はあると思いますが、1周目は54秒/70秒だった。ところが次の周から下りを飛ばさず、上りで頑張るようになる。2周目からのラップは64/66、71/66、69/65、70/65。瞬時にコースを判断して、ペースメイクができていた。テレビ番組の企画とはいえ、これは本当にすごいことです。
西本 ところが本番まで半年を切ってもコロナで五輪開催の是非が問われ続けていて、新谷さんはすべての質問に真正面から向き合って答え続けていきます。その影響で練習以外にも気になることが増えてきて、メンタルが揺らいできました。5月の日本選手権10000mは当然のようにDNS。5月9日のテストイベントでは、「5000m日本記録更新」と、強気の発言で自分を追い込んでいましたが、スタートラインに並ぶ新谷さんからはいつものような研ぎ澄まされた集中が感じられなかった。なんとか、自分を奮い立たそうと会場に流れる音楽にあわせてリズムをとったりするんです。
「新谷さんは欧米型」「集中力が持つのは1カ月半だけ」
森岡 そう考えると6月末の日本選手権5000mはもっと崩れてもおかしくなかった。それがちゃんと田中(希実)も振り切って上がってきた。こういうところをきちんとまとめることができるのも彼女の強さです。
西本 最後のレースとなったホクレン千歳は1日で3000mを2本、1500mを1本走りました。これは10000mを走るための調整の部分もありましたが、暑さの中でしっかり走り切れていて、現地で見ていてホッとしましたが、ホッとしたのは、ぼくらだけでなくて、新谷さんも同じだったようです。
森岡 新谷って、去年の初夏や今年の前半など何をやっているかわからない潜伏期間があるじゃないですか。これって欧米型の選手に近いんですよ。欧米の選手は秋のクロスカントリーシーズンが終わると、トラックシーズンまでオフになる。ところが日本はそこで駅伝をやったりして、ずっと走り続けている。仙台育英高校が強かった当時、監督を務めていた渡辺高夫さんも「オフがあった方がいい」と冬は試合に出ていなかった。新谷の強さはこのあたりにあるかもしれない。
西本 今回、現役復帰からのレース出場記録をすべて見てきて、「新谷さんの集中力が持つのは1カ月半だけ」という自説に確信を持ちました(笑)。
森岡 そうかもしれない(笑)。そのあたりオンとオフのハッキリしていた福士と似ていますね。
西本 本人もずっとモチベーションを維持することはできないけど、短期的にモチベーションを上げて積み重ねていくことはできると言ってました。
森岡 それは強い選手の特性かもしれない。集中力が高いがゆえに、短期集中でバ~ッと上げて、そこから集中力をキープする。そう考えると、急激な成長曲線も納得できます。ホクレンから3週間で迎える東京五輪のレース、新谷と横田がどんな風に仕上げてくるのか、楽しみです。
(【前編を読む】「ダメだ、このままでは引退前と同じことを繰り返す」10000m新谷仁美(33歳)を変えた“世界トップに負けた夜” へ)