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調整は順調だったのに…バドミントン・桃田賢斗はなぜ敗れたか 世界ランク1位が抱えた“失ったリオの重圧”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2021/07/30 17:04
バドミントン・桃田賢斗の敗退は日本のみならず世界にも衝撃を与えた。世界ランク1位でむかえた自国開催の五輪に何が起こったのか
重なるアクシデントで実践経験を積めなかった
大会が始まる前、解説などでも活躍する元選手が語っていた言葉がある。
「もともとディフェンスを得意としているタイプです。ただ、試合から離れているため、相手のショットのスピード感だったり、角度やコースだったり、そういう部分に対応する機会もなくなっていました。久しぶりの試合でそのあたりがどうなのかな、と」
新型コロナウイルス感染拡大でオリンピックは1年延期になり、多くの大会が中止になるなど影響を受けた。それはどの選手も等しい。ただ桃田は、20年1月、遠征先のマレーシアで、帰国するために乗車した車が交通事故に巻き込まれて負傷するアクシデントがあった。復帰することができたのは同じ年の12月だった。
新春には実戦を重ねるため海外遠征を予定していた。だが日本を旅立つ際、空港で受けたPCR検査で陽性反応が出て、遠征の中止をよぎなくされた。その後、オリンピックまでの間に出場できたのは3月の全英オープンのみであった。この大会では準々決勝で敗れている。
桃田のプレースタイルから考えて、実戦経験を積めなかったことが懸念されていた。
「久しぶりに相手のショットを受けたとき」
先の選手の言葉には続きがある。
「久しぶりに相手のショットを受けたとき、感覚に戸惑ったり、心理的な部分での影響もあるかもしれません」
桃田が「冷静に対応できず、気持ちが弱くなってしまっていた」と語ったのは象徴的だ。感覚にずれがあれば、メンタル面への作用も起きてくる。
1次リーグから試合を重ねていければ感覚は徐々に取り戻せただろう。ただ、許は世界ランキングで言えば差があるとはいえ、初戦の相手と比べればかなりの実力を持つ。取り戻す前であったであろうこともこの結果につながっている。