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「よその人間の口出しを許さない、限られた世界の…」“ヴェルディ育成主義の気風”に加わった外部の血、その化学反応とは
text by
海江田哲朗Tetsuro Kaieda
photograph byMasashi Hara/Getty Images
posted2021/07/11 11:01
喜ぶ小池純輝と佐藤凌我。育成出身の選手に加えて彼らのような存在がヴェルディに化学反応を起こしている
結果、チームが行き詰まりかけたとき、さまざまなキャラクターの選手を擁していたのが救いの糸となった。とりわけ、中盤の底で攻守の要となっている加藤、ンドカの圧倒的なパワーとハイボールの強さ、サイドを切り裂く山口の突破力は重要な武器である。
永井監督と月に一度ひざを突き合わせて話し合い
江尻強化部長は練習前のミーティングに常時参加し、永井監督とは月に一度ひざを突き合わせて話し合う場を設ける。そこで、データから見えてくるチームの長所や弱点を提示し、サジェスチョンを与え、方向性を確かめ合った。自身も監督業の経験があり、現場への過度な介入は混乱の元と心得ている。
「永井監督はこれまで取り組んできたサッカーのバージョンアップを試みると同時に、状況によっては勝つために手を広げて選択してくれるようになった。現場のトップが聞く耳を持たない人であれば難しかったでしょう。今後も現在のスタイルを継承し、かつ戦術的なオプションを増やせるように強化の面でサポートしていきたい」(江尻強化部長)
仮に永井監督が従来のやり方で凝り固まっていたら、あるいはンドカや山口の戦術面の適応が遅れていたら、いまの変化は実現しなかっただろう。
これには中島翔哉をはじめ、森本貴幸、小林祐希、安西幸輝、畠中槙之輔などを代表に送り込み、日本屈指の育成組織を持つ東京Vならではの事情もある。貴重な財産であるアカデミーを最大限に活用し、短中期のビジョンを描くチーム編成は至極真っ当な考えだ。しかし、このやり方は別の危険をはらむ。
小見幸隆氏が知るヴェルディ特有の気風
前身の読売クラブ時代は中心選手として活躍し、引退後、指導者や強化担当として長年携わった小見幸隆氏は、特有の気風についてこう語る。
「あそこは大人、子どもの区別なく、サッカー偏差値が高くないと相手にされない場所。育成の頃からの淘汰を経て、選手間にランキングが出来上がるんです。よその人間の口出しを許さない、限られた世界の厳重なランキングが。あいつは自分より上で、こいつは下といった具合にね。年代を跨るそれは、プロになって以降も残り続け、時には競争を阻害するなあなあの関係になりかねない。監督の基準に照らされる一方、選手間の序列が大きく影響する。だから、外部から新たな基準を持つ選手を入れ、かき混ぜてあげないとダメなんですよ。本来は育成の時期から積極的にかき混ぜるべき。そこで、アカデミー全体を統括する人間の力量が求められるのは言うまでもありません」