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「これも差別だ、どうして耐えてきたんだろう」 給与、強化費、セカンドキャリア…日本スポーツ界に残る男女格差に“気づく”ということ
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph bySachiko Horasawa
posted2021/06/25 17:00
競泳選手として活躍した井本直歩子氏は、日本スポーツ界の問題点を実感している
「あまりにも格差がすごい。改めて驚いています」
ジェンダー ――社会的・文化的につくられる性差。「男性だから」こうあるべき、「女性だから」こうあるべき。そんな「偏見」はさまざまな局面に反映され、経験や役割の違いや男女間の関係に投影される。そして不平等な関係が築かれる。
「(ユニセフでは)昇進も難なくできるし、平等にしなければという組織の意識や努力が顕著。でも帰国してみると、あまりにも格差がすごい。改めて驚いています」
勉強会に参加したアスリートたちからも、男女の給与の違いや、女性の方がよい成績をあげているのに男性により多くの強化費が投じられているなど、さまざまな声が上がったという。
「スポーツ界で言えばそもそも(組織の)上の方に女性がいないですよね。スポーツ界は昔から男性社会だし、女性アスリートのセカンドキャリアも意識が全然違う」
多様な意見を交わした方が当然よい政策が生まれる
さらに、ジェンダー平等の理解が進まないことによるマイナス面をこのように考える。
「同調する、偏ったグループでいろいろなことが決められていますよね。でも多様な立場から新しい考えを取り入れて、いろいろな意見を交わして決めた方がよりよい政策が生まれるのは当たり前のこと」
同じような背景を持つ人々でものごとを判断すれば、出てくるアイデアには限界がある。それを超えていくには発言者の多様性が求められるが、ジェンダーの不平等や格差は、多様性を尊ぶ姿勢とは対極にある。
さらにはジェンダー平等が実現されていない社会で、一人ひとりがいわば性別のカテゴリーにあてはめられていれば、個性の十分な発揮もかなわない。これは社会全般にあてはまることであり、スポーツの世界でも、平等であることが発展するために重要となる。
さらに井本はこう話す。
「人々が対等に扱われていない社会では、将来を担う人材が育たない。それは競技の強化や普及にも響いてくると思うんですね。男女に限らず、みんなが持っている実力を出し切る土壌がスポーツ界にないのが問題だと思います」