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キミッヒとゴセンスの両翼が躍動してポルトガルを粉砕 国民の信頼を取り戻したドイツが運命のハンガリー戦へ
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/06/23 17:00
ポルトガルを下し、今大会初勝利を手にしたドイツ。周囲に漂う批判的な空気を一掃した
メディアの中には、リバプールのクロップ監督の「私だったら4バックでプレーさせる。ギュンドガン、クロース、キミッヒの3人を中盤センターで起用したら、それぞれが自分のポジションでプレーできる」という言葉を引き合いに出し、「クロップがレーブの戦術を批判」といった見出しをつけたりするところもあった。
実際のところ「監督には決断する権利がある。3バックでも結果を出すことはできる」とレーブに対するリスペクトを口にしたうえで、自分が監督だったらどうプレーさせるかのアイディアを口にしたに過ぎないはずだが……。
いずれにしてもドイツ代表を取り巻く世間の目は、決して甘くはなかった。
小気味いいパス交換でポルトガルの守備を攻略
しかし、15年という長きにわたり代表チームを率いてきたレーブの経験は伊達ではない。外で何を言われているかが大事なのではない。練習中、そして合宿地でのチームの雰囲気、個々のコンディション、パフォーマンス状態こそが大事なのである。
「システムが問題なのではない。前へ向かい、もっとダイナミックに、連続して、正確にプレーしなければならない。勇気とプレーの方向性、そしてリスクへチャレンジしていく姿勢が必要になる」
レーブは試合前の記者会見でそう強調し、ポルトガル戦にフランス戦と同じメンバーで臨んだ。そして、この試合でドイツは見違えるように躍動感のあるプレーを見せてくれた。
最終ラインのルディガーとギンターがドリブルで前へボールを運ぶことで、前線で数的有利な状況を作り出す。攻撃的MFのミュラーとハバーツがボール近くで常にパスコースを作り出し、攻撃に変化を加えていく。クロース、ギュンドガンのセンターMFも互いの距離を微調整しながらフランス戦と比べて明らかに高めの位置でパスを引き出そうとしていた。パスの出しどころがなく、グルグルとボールを回すだけだった初戦とは違い、小気味いいパス交換でポルトガルの守備を攻略することに成功した。
特に重要だったのが、キミッヒとゴセンスの両サイドだろう。
フランス戦ではともにサイドで孤立していたが、この試合では相手の裏を取ろうと走り込んだり、味方と繰り返しポジションチェンジをして相手を翻弄したり、何度も攻撃にアクセントを加えていた。
そして、逆サイドで攻撃が展開されている際にはタイミング良くペナルティエリア内に侵入し、ポイントを作れていたことも大きかった。
3点目は、そんなドイツの良さがすべて凝縮された得点だった。
右サイドで細かいパスをつないで起点を作り、センター気味にポジションを移していたキミッヒとミュラーがワンツーでボールを運び、相手がケアしきれなくなった左サイドへ侵入していたゴセンスへ展開。ダイレクトでゴール前に折り返したボールに、走り込んだハバーツが右足で合わせてネットを揺らした。右サイドでパス回しに絡んでいたハバーツが次の瞬間、ゴールを決めたのがとても印象的だ。