沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
30年前「トウカイテイオーのダービー」はディープともブライアンとも違っていた 圧勝か、大敗かだった名馬の“特別な強さ”とは
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byBungeishunju
posted2021/05/29 06:00
トウカイテイオーが制した30年前のダービーは、ディープインパクトら三冠馬とは違った衝撃があった
ダービーは大外「20番枠」で1.6倍の圧倒的1番人気
そして、5月26日の第58回日本ダービー。ここでもトウカイテイオーは大外の20番枠を引いた。28頭が出走した77年のダービーで24番のラッキールーラが優勝するなど、もっと外の枠番から出て勝った馬はいたが、大外枠を引いてダービーを制した馬は1頭もいなかった。
それでもテイオーは、単勝1.6倍の圧倒的1番人気に支持され、そのプレッシャーまでも楽しむかのようにパドックを歩いていた。
常歩での歩き方からして他馬とは違っており、一見してテイオーだとわかった。繋(つなぎ)が長く、やわらかいため、人間のモンローウォークのように腰を大きく上下させて歩くのだ。
外をグルリと回ってきたら勝っていた、とまで見えた
ゲートが開いた。テイオーは速いスタートを切り、先頭から5、6馬身離れた好位の外につけた。そのまま終始内埒から4、5頭ぶん外を回ってレースを進める。コースロスはあっても、不利さえ受けなければ勝てるという、鞍上の安田の自信が伝わってきた。
3、4コーナーで、テイオーが楽な手応えで外から進出すると、スタンドが沸いた。
直線に入ると、他馬が激しく追われるなか、持ったままで外から先頭に並びかける。ラスト400mを切って、安田の右鞭を受けるとさらに加速。まったく危なげない走りで、2着のレオダーバンを3馬身突き放してフィニッシュ。大外枠のハンデなど、この馬にはまったく関係なかった。圧倒的な強さで、51年トキノミノル、60年コダマ、84年の父シンボリルドルフにつづく、史上4頭目の無敗の二冠馬となった。
まるで、パドックを弾むように歩いていたそのままのリズムでコースに出て、外をグルリと回ってきたら勝っていた――とまで見えた楽勝だった。
他馬を威圧したり、見下ろしたりするイメージではなかった。ただ、軽く走っただけでビッグレースを勝ってしまうように見せてしまうところが、トウカイテイオーというサラブレッドの強さだった。
父につづく無敗の三冠制覇が期待されたが、ダービーの3日後に骨折が判明。菊花賞を断念することになった。