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大谷翔平と大リーグの怪物たち。規格外れの本塁打連発に、実況が思わず叫んだ「こいつにできないことはないのか!」
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2021/05/22 11:03
5月17日(現地時間)、13号HRを放った大谷。今季は難しい球をこともなげにホームランする打撃が印象的だ
だが、「投手で本塁打王」と聞いてだれしも反射的に思い出すのは、やはり怪物ベーブ・ルースだろう。大谷がルースと比較されることは小学生でも知っているが、そのスタッツは、見れば見るほど興味深い。
「二刀流」ルースが、投手(大谷とちがって、奪三振は多くなかった。9イニングス換算で平均3.6個)として本格的に活動したのは、レッドソックス在籍時代の1919年までだった。20年にヤンキースへ移ってからもわずかに登板してはいるものの、もはや本業とは呼べない。
18年の彼(開幕時23歳)は投手として19試合に先発し、13勝7敗、防御率2.22の成績を残す一方で、ア・リーグ本塁打王(11本)をティリー・ウォーカー(アスレティックス)と分け合った。キャリア初の本塁打王だ。
翌19年、ルースの打撃(大谷との相違点は、四球が多く、出塁率が高かったことだ。5割越えも5度経験している)は野球に革命を起こす。投手としては15試合に先発して9勝5敗、防御率2.97の成績だったが、打者としては432打数29本塁打、打率.322の驚異的な数字を残すのだ。
ちなみにこの年の本塁打数第2位は、ナ・リーグの本塁打王ギャヴィ・クラヴァス(フィリーズ)の12本。ルースのパワーがどれほど飛び抜けていたかは一目瞭然だろう。
この後のルースは、長年にわたって本塁打王をほぼ独占しつづけた。18年から31年までの14年間で、本塁打王が12回。リーグMVPという表彰制度が本格的に確立されたのは31年以降だが、もしもっと早く定められていたら、何度その栄誉に輝いたかわからない。
大谷が実現する“規格外れ”の姿とは
大谷翔平には、さしあたって19年のルースを目安にしてもらいたい。ブルペンが潰滅状態のエンジェルスだけに、先発投手として勝ち星を増やすのはむずかしいだろうが、大きな故障にさえ見舞われなければ、本塁打40~50本は十分に実現可能な数字だ。これに加えて、投手として年間15試合に先発し、防御率2点台後半から3点台前半、奪三振120個を記録すれば文句なしの水準ではないか。
それにしても、メジャーリーグには「規格外れの怪物」や「奇想天外の存在」がよく似合う。タイ・カッブ、サイ・ヤング、ベーブ・ルースといった古典的怪物はもちろんのこと、日本人大リーガーに絞っても、野茂英雄やイチローやダルビッシュ有は、それぞれの形で規格外れを実現させてきた。はたして大谷翔平は、どのような形で奇想天外を拡張してくれるのか。
「なんてことだ。こいつにできないことはないのか!」と叫んだ現地のアナウンサーの反応は、けっして大げさではないと思う。