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ミスジャッジは非難されるけど、好判断は褒められない…ではなぜピッチに? ブンデス現役審判が率直に回答してくれた 

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中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

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photograph byGetty Images

posted2021/05/21 06:00

ミスジャッジは非難されるけど、好判断は褒められない…ではなぜピッチに? ブンデス現役審判が率直に回答してくれた<Number Web> photograph by Getty Images

ブンデスで笛を吹くイェーレンベック氏が、レフリーという職について忌憚なく語ってくれた

何万人ものブーイングにはどう対処している?

――ブンデスリーガの試合はピッチ上だけではなく、外からのストレスもあると思います。今はコロナ禍で無観客ですが、いつもは何万人の観客の前で笛を吹く。僕もスタジアムで取材をしていると耳を塞ぎたくなるようなブーイングを聞いたりします。そのあたりにはどのように対処しているのですか?

「まず、大きなスタジアムと小さなスタジアムでは分けて考えたほうがいい。というのも数万人のファンがそれぞれに叫んでも、ひとつ一つの声は届かない。聞こえたとしても誰が言ったかはわからない。確かにブーイングはいい気持ちはしないけど、それが笛を吹く妨げになったりはしない。

 それから、審判に対する文句やヤジというのは問題ないものとして受け止めているよ。私たち審判の役割はルールに基づく判定をしていくことで、それぞれファンの願いや望み通りに笛を吹くことではないからね。でも、それが度を越して審判をしている人の人間性を攻撃するような場合は問題だ。そこは、しっかりと分けて考えないといけない。審判の判定に対する批判はオッケーだし、オッケーでなければならない。けれども、それが個人の人間性を攻撃するようにことはあってはならない。

 小さなスタジアムの場合、それぞれの文句やヤジ、それこそ侮辱的な声はダイレクトに聞こえてくるし、誰が言ったのかもすぐにわかる。匿名の誰かのなにかじゃなくて、そうなると個から個への明確な攻撃だ。審判としてそれはつらいし、傷つきもする」

――そうした点で言うと、育成年代でも審判へのリスペクトに欠ける言動がなかなかなくなりません。どんな対処が考えられるのでしょうか?

「2つの可能性があると思う。1つはそうした振る舞いに対して毅然と処罰するということ。そうすることで周囲へ明確なサインを送り、審判を守る。もう1つは、何のために審判がいるのか正しく理解してもらうこと。審判は、自分たちのためにピッチに立っているわけではない。試合が正しく行われるためにいるわけだ。2つのチームがルールのもとフェアプレー精神で試合を行うためにいる。審判という役割がないと試合は成り立たないということを正しく理解してもらいたいし、そのための情報を丁寧に広げてほしいと思う」

審判は試合を壊すためにいるわけではない

――大事な指摘ですね。審判は敵ではなく、いい試合をするための共催者なのですね。

「それは重要なポイントだ。私たち審判は、決して試合を壊すためにいるわけではない。試合をうまく進めるためにいる。いい試合にするために目的を持って取り組んでいるし、正しい判断をするために様々な準備をしている。私たち審判も、いい試合をするために"プレーしている"ことを、もっと広く、深く知ってもらいたいね」
 

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