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新しい地図・稲垣吾郎×パラバドミントン 世界を制した女王と元野球少年の新鋭が語る「ホームの緊張感」とは?
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/04/19 06:00
パラバドミントン界期待の2人と鼎談した稲垣吾郎(左)。「緊張感」について語り合ったことで発見した、役者とアスリートの共通点とは?
稲垣 鈴木選手は2009年の世界選手権で優勝後、一度引退されていますよね。絶頂期とも言えるタイミングで、なぜ引退を決断されたんですか。
鈴木 パラリンピックの競技になかったことは大きかったですね。世界選手権で金メダルを獲って、それ以上がないなら、もういいかなと思ったんです。だから復帰も、13年に東京パラリンピックが決まってからすぐに決めました。
稲垣 そのブランクを取り戻すという意味で、鈴木選手にとっても延期は悲観することばかりではないような気がします。
鈴木 延期はもちろん残念ではあったのですが、私も良い機会だなと。特に19年は1カ月に一度海外で試合をしていて、あまり集中してトレーニングができなかったんです。反対に去年は1試合も国際大会には出場できなかったので、自分の課題としっかり向き合うことができました。
稲垣 ただ、どうしても試合勘なんかは鈍くなってしまいませんか。
鈴木 だからこそ本番前に一度は大会に出たいなと思っています。独特な緊張感にも慣れておきたいですし。
稲垣 どのスポーツでも、試合になると空気がピリッとしますね。
鈴木 はい。あの雰囲気、結構好きです。
稲垣 緊張感が気持ちよくなってくると無敵ですよね。僕らの仕事でもそうですけど、慣れすぎて緊張しなくなってくると怖い。もちろん固くなりすぎると上手くできなくなりますし、ちょうど良いベストなパフォーマンスを披露できる度合いがある。舞台では特にそういうのを感じます。
「日本だと絶対優勝しています」
鈴木 ベストな緊張感に持っていくための秘訣はありますか? ぜひお伺いしたくて。
稲垣 舞台の仕事は周りが雰囲気を作ってくれる部分も大きいかな。もちろん自分でもイメージや役作りは必要だけど、世界観に引き込んでくれる共演者がいたり、セットがあったり。あと、お客さんが緊張してるんですよね。
鈴木 お客さんが?
稲垣 たとえば、僕が年末年始にかけて舞台『No.9』で演じたベートーヴェン役は、冒頭で暗闇からコツコツ歩いて登場するんです。そこで観客席の方を見るとシンとした空気が伝わってきて、お客さんもすごく緊張してるな、と感じました。それが何度も演じている僕らの空気を新鮮なものに戻してくれたり、反対に冷静になれたり。アスリートの方も、お客さんは重要って言いますよね。
鈴木 スポーツでもお客さんが「負けないでほしい」と緊張していて、その空気感が私たちを冷静にしたり、力を与えてくれるところがあるのかもしれません。そういえば、私は一番のライバルである中国の選手と戦ったとき、海外の試合だと負けるんですけど、日本だと絶対優勝しています。
稲垣 アウェーの試合ってやっぱりしんどいんですか? サッカーとかでは、観客のヤジが飛び交っていたりします。
鈴木 パラだからかもしれないですけど、ヤジとかはないですね。良いプレーをしたら、敵味方関係なく拍手が起こります。でもホームだと応援してくれる方の数が圧倒的に多いので、それが大事なのかな。
稲垣 僕らもお客さんがいなかったら絶対にできないなと思います。これだけ長く芸能界にいると緊張感とか必要ないでしょって言われることもありますけど、ドラマとか生放送、歌や芝居はやっぱり緊張しますよ。それが気持ちいいんですけど。
鈴木 梶原くんはあんまり緊張とかしない?
梶原 いや、めちゃくちゃします! 試合前も固くなっちゃって、ダブルスでペアの村山(浩)選手に「固いぞ」って言われたり……。
鈴木 明らかに緊張してるんだ(笑)。
稲垣 その緊張を越えたベストゲームはありますか?
梶原 19年に日本で開かれた大会で、先ほど名前を挙げたキム選手と対戦したときですね。初めて1セット獲れたんです。そのときは結構グッと試合に入れたような気がしました。あ、僕も日本ですね。