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「羽生選手の演技を撮影できたとき、報われる思いがありました」 世界選手権を撮影したフォトグラファーが明かす“国際大会の今”
posted2021/04/11 11:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
3月下旬にスウェーデン・ストックホルムで開催されたフィギュアスケートの世界選手権は、コロナ禍にあって予定通り開催されるのか不安の声も上がりつつ開幕し、無事最後まで行なわれた。
選手たちは、現地入りする前の48時間以内に受けたPCR検査で陰性を証明することが義務付けられ、入国後はホテルの部屋での隔離を経てその後は外部との接触を遮断する、いわゆる「バブル方式」のもとで出場した。
コロナの影響を受けたのは選手やコーチばかりではない。取材にあたったメディアもまた、厳重な取り組みを強いられた。
「最後まで撮りきれるか、それが隔離中からずっとある大きな不安でした」
現地で撮影にあたった榎本麻美は語る。
榎本は文藝春秋写真部のフォトグラファーとして、夏冬のオリンピックをはじめさまざまな現場で競技写真を撮り、また数多くの余韻の残るポートレートを形にしてきた。
フィギュアスケートの撮影経験も長い。ソチと平昌の両オリンピックをはじめ、毎シーズンの世界選手権やグランプリシリーズなど、数多くの大会に足を運んでいる。
空港で多くの手続きを経ても「入国は保証しません」
ただ今シーズンは誰もがそうであったように、コロナの影響を受けた。国際大会は次々に中止となり、実施された国内大会はフォトグラファーの人数を大幅に制限された。結果、新春の「名古屋フィギュアスケートフェスティバル」こそ撮影したものの、大会の撮影は世界選手権がシーズンで初めてとなった。
コロナの影響が続いていることに変わりはない。いつものようにはいかなかった。
出発は3月16日。参加する選手の公式練習開始は22日からだったが、その前に1週間の隔離が必要と聞かされていたための早い出発だった。だが飛行機に搭乗するまでが容易ではなかった。
「PCR検査の陰性証明が必要でした。当日の夕方、成田空港で検査を受けて陰性の結果が出た後、書類を持って航空会社の発券カウンターに行きました」
スウェーデンは第三国からの入国を原則、認めていない。例外として認められる事項の1つに報道関係者であることが設けられており、それを示すレターなどを提示して無事発券にこぎつけた。
「ただ、『入国は保証しません』とは言われました」