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「羽生選手の演技を撮影できたとき、報われる思いがありました」 世界選手権を撮影したフォトグラファーが明かす“国際大会の今”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2021/04/11 11:02
2021年世界フィギュアで3位になった羽生結弦。非常事態下の国際大会は選手や関係者の力で無事幕を下ろした
「感染して撮れなくなるのは絶対に避けなければ」
知人の2名のフォトグラファーとともにカタールを経由し、ストックホルムの空港に到着。
「レターと陰性証明を見せると通してもらえました。出国までの厳しさと比べると、そこは大丈夫でした」
ホテルにチェックインすると、自主隔離の日々を過ごすことになった。
心にあったのは、「絶対に感染しないこと」。
「感染して撮れなくなるのは絶対に避けなければいけないことだったので」
というのも期間中、3度にわたり抗原検査を受けて、その都度陰性でなければいけなかったからだ。
「パスを受け取ったのは21日ですが、パスを受け取る前の陰性証明が必要でした。その後も24、26日に検査と陰性の証明が求められました」
「羽生結弦選手のショートを撮影できたときには」
食事は隔離期間に備えて日本からある程度持参していたものを食べた。あるいはスーパーで食材を買って自炊した。外食は一切避けたし、外に出ることも最低限に抑えた。とりわけ、ストックホルムの状況を見て、なおさら意識を強めた。
「決して感染者数が少ないわけではないのに、外を歩く人の中でマスクをしている姿はほとんどありませんでした。お年寄りがつけているのと、電車の中など義務付けられている公共交通機関内で見るくらいです。お店で調理している人もマスクをしていなかったりする。だから外食もしませんでした」
マスクを二重にし、手指の消毒は日本にいたときよりずっと入念に行った。
そうした時間を過ごし、公式練習から試合、エキシビションと撮影を重ねた。
感染するわけにはいかないという緊張を抱えた中での撮影だったこともあり、選手の演技には強いインパクトを感じた。
「羽生結弦選手のショートプログラム、あの迫力ある演技を撮影できたときには、大変だったけれど撮れてよかったと報われる思いがありました」