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「山はお金がかからない」“サバイバル登山家”になって22年…なぜ服部文祥は廃村暮らし(電気なし、ガスなし、水道なし)を選んだか
text by
稲泉連Ren Inaizumi
photograph byNanae Suzuki
posted2021/04/10 17:01
服部文祥さんと愛犬ナツ
そもそも俺がここでやろうとしているのは、子供の頃にしていた「秘密基地ごっこ」の延長みたいなものなんだ。当時は戸塚に住んでいて、雑木林を住宅地が食いながら進出していく時期でさ。畑と田んぼと工事現場がせめぎ合う「平成狸合戦ぽんぽこ」の風景の中で、秘密基地ごっこをする場所には事欠かなかった。そこで虫を取ったり、どろけいをして遊んでいたのを、大人になってもやろうとしているという感じかな。
あと、何より思い出すんだ。子供の頃、庄内平野で農家をしていた母親の実家に遊びに行くと、大きな古民家の畳の部屋に、いつ食ってもいいトウモロコシ、だだちゃ豆、カレイなんかがどかっと置いてあってさ。この家に住みたいと子供心に思ったんだけれど、その感覚を抱かせた田舎の生活は一つの原風景である気がする。いま、自分なりのやり方でそのときに抱いた感覚を、この場所で再現してみたいという気持ちもある。
獲物一頭しとめたら2日は仕事がある
――廃村での暮らしはどのようなものなのでしょうか。
服部 基本的な願望としては、午前中は執筆、午後は畑に行ったり、家の修理をしたり、と何らかの田舎暮らしの仕事をしたい。去年にコロナが流行りだしてから、編集者としての仕事も月に半分以上はリモートワークできるようになった。こんな場所にも電話線だけはきていて、インターネットがつながるからね。
ただ、冬は朝一の方が獣に会うから、日の出とともに鉄砲を持って歩き始めることもある。やっぱり歩いて狩りに出られるのは嬉しい。ここはすぐ近くまで鹿が来るから、ナツがワンワン鳴き始めて、見たら獣が来ていることもけっこうある。
獲物がとれた日は、山から半日かけて運んで降りてくる。