濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
武藤敬司の“ノア入団”は何を意味するのか 会場がどよめく武道館の潮崎戦にみた「老いぼれ」の底力
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byMasashi Hara
posted2021/02/20 17:03
潮崎豪に勝利した武藤敬司。ノア入団により、プロレス界はどう動いていくのだろうか
武藤のノア入団は何を意味するのか
「プロレスはゴールのないマラソン」
これも“武藤語録”の一つ。歴史的戴冠の3日後、週明け15日の会見で発表されたのは武藤のノア入団だった。“永遠の恋人が作った団体”のチャンピオンになり、さらにそのメンバーに加わったのである。会見で武藤は言った。
「俺の骨の髄までしゃぶってもらいたい」
技術、経験、知名度、ありとあらゆるものをノアに捧げようというのだ。契約は2年。「2年たったら還暦なんでね」と武藤は言う。それまでリングに立ち続けるという意思表示だろう。
大変なことになった。新日本でトップに立ち、全日本で社長を務め、海外でも抜群の知名度を誇るレジェンド。そのDNAをノアは団体内に取り込んだのだ。この会見では、同じ運営会社CyberFightに属するDDTへの秋山準の加入とヘッドコーチ就任もアナウンスされた。
それが何を意味するか。ジャイアント馬場の教えを受けた秋山の“本道”のプロレスがDDTのものになったということだ。CyberFightは“武藤敬司も秋山準も丸藤正道も男色ディーノもいるプロレス運営会社”になった。
「新日本プロレスに追いつけ、追い越せ」、「業界ナンバー1を目指す」。以前からそう言ってきたのはCyberFight社長の高木三四郎だ。この会見でも、高木はあらためて「業界ナンバー1」への意欲を見せた。これに対する武藤の言葉が、いかにも武藤らしかった。
「いちレスラーとしてはトップのつもりだから。それを団体がどう料理してくれるか。ナンバー1のレスラーを抱えた以上、組織としても業界ナンバー1になってもらわないと」
「田中マー君よりちょっと見劣りするかな」
初防衛戦は3月14日の福岡国際センターに決まった。地方でのビッグマッチ開催やプロレスから離れていたファン層の掘り起こしに、ノアと武藤敬司のマリアージュは抜群の効果を発揮するのではないか。また武藤は、海外での防衛戦にも意欲を見せている。
あらためて“三沢光晴が作った団体”の一員になったことについて聞かれると、武藤はこう答えた。
「もう三沢社長が築き上げたノアとはだいぶ違っていて。去年から参戦して、コロナ禍の中で(無観客試合など)未来を感じさせる興行をしてるなと」
ただ会見後の囲み取材では、こんな言葉もあった。
「(三沢は)たぶん俺のやることは全部、賛成してくれてると思うよ」
生中継される会見を終えてリラックスしたのか、この囲み取材での武藤の言葉がまた冴え渡っていた。
「なかなか素晴らしい契約で。田中マー君よりちょっと見劣りするかな」
「チャンピオンの責任感っていうのは、あんまり意識するとお客さんに見透かされるというかね。大事なのは1試合1試合、いかにいい作品を残すか」
「グレート・ムタもノア入りか? それは別ギャラだろうな、別人格だし」
時に記者陣を笑わせて、かと思うとベテランらしいプロレス哲学を披露する。ノアはとてつもなく大きな力を手に入れたし、ノア入団によって武藤のモチベーションが上がっていることも感じられた。