“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
選手権屈指の2トップが早すぎる敗退…京都橘に憧れ、Jユース昇格を断った西野太陽と木原励のライバル関係
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byKyodo News
posted2021/01/04 17:02
先輩である西野太陽との2トップで威力を発揮した京都橘FW木原励(2年)。1回戦では2ゴールをマークした
偉大な先輩たちへの憧れとユース昇格を断って京都橘にやってきたという似た経緯を持つ2人は、互いに学び合い、切磋琢磨を続けて成長。迎えた2020年、2人は最高のパートナーへと変貌していく。
「最初からフィーリングは合っていました。励を見ていなくても、どこにいるかわかるんです」と西野が語ったように、1年間お互いをじっくりと観察し、足りないものを吸収し続けていたからこそ、それぞれが見えている世界を分かり合っていた。
「僕が落ちたら、太陽君が裏に抜ける。どちらかがボールを受けた瞬間に動き出す。相手の守備の形を2人で把握して、動きに変化を加えて崩していくことが楽しい」(木原)
ADVERTISEMENT
両者タイプが似ているだけに、役割分担はハッキリ分かれていない。どっちがポストプレーをするのか、どっちがスペースに抜けるのか、守備側の視点に立てば的を絞りづらい。最高のコンビネーションは着実に進化し続けていた。
ヴォルティスから戻った西野は「別人」
3月、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で活動は中断。サッカーすらまともにできない日々が続いた。
しかし、それでも2人は歩みを止めない。この期間、西野は自分の映像を見直すことにした。「励のように相手を背負って反転して強引に打つシュートがまだ足りないと思ったので、フィジカル強化と反転の速さを意識しました」と肉体改造に着手。木原も「自分のできていないプレーを映像で見て整理をしました。太陽君のように一瞬のスピードがもっと必要だと思ったので、体の使い方や足の指を使ったグリップなど、より加速力や跳躍力を上げるトレーニングをしました」とそれぞれ課題の消化に努めた。
さらに中断が明けてからの8月には西野が3週間ほど、徳島ヴォルティスの練習に参加したことで木原は大きな刺激を受けたという。
「徳島から帰ってきた太陽君は大げさかもしれませんが別人のようになっていた。スピード感が1人だけ違ったし、シュートの際の振りの速さや足の伸びがレベルアップしていた。『やばい、差を広げられた』と焦りましたし、より自分の課題が明確に見えて、太陽君から吸収することが一気に増えました」
徳島の練習に参加している西野のもとには、米澤監督から「こちらでは励が爆発しています」というメッセージが届いていた。8月の大会で桐光学園高を相手にハットトリック、市立船橋高校を相手に2ゴールを挙げてチームを勝利に導き、別のフェスティバルでも結果を出したことを知ると、「僕がいなくても励がいれば十分にやれているんじゃないかと焦りましたが、次会うときはどれくらい成長をしているのか楽しみでした」と笑ったように、互いに離れていても刺激を与え続けた。
そして9月、再びコンビを組んだ彼らは京都府予選でゴールを量産。京都橘を2年連続9回目の選手権に導いたのだった。