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「選手として難しい状況…」前世界王者・伊藤雅雪が自らプロデュースした三代大訓戦で“まさかの敗戦”のワケ
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/12/28 11:55
伊藤雅雪(左)はボクシング界の現状を打破すべく、自ら試合を演出し監督としての役割も果たしたが…
伊藤「自分が監督、演出、主演」
メインイベントの舞台に立つ“主役”の伊藤もその思いを共有していた。自らアメリカでトレーニング環境を開拓し、2018年にアメリカで世界チャンピオンとなった伊藤。翌年に世界王座から陥落したあとも海外を主戦場にする気持ちに変わりはなかったが、コロナという状況もあり、まずは国内のボクシングを盛り上げようと決意したのだ。
ライト級に階級を上げる伊藤は“ライト級ウォーズ”というシナリオを自ら書き上げる。まずは無敗で東洋太平洋王者の三代と対戦し、その試合に勝ってライト級で日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィックの3冠を保持する吉野修一郎(三迫)と激突。国内ライト級最強を証明して、海外トップ選手の争いに殴り込みをかけるというものだ。
伊藤は「自分が監督、演出、主演」と言ってはばからず、「僕が勝たなきゃ意味がないし、面白くない」などあえて挑発的な発言をして試合を盛り上げた。イベントの演出にも関わり、元プロ野球選手の長嶋一茂さんをゲストに招くなど“監督”としての役割も果たした。
「より大きな舞台にして最後にかっさらおうと」
こうして大会の機運を高め、舞台を整えた結果、クラウドファンディングは目標金額の2500万円を大きく上回る3700万円(チケット販売を含む)超を集めた。会場の演出にも手間暇をかけ、ユーチューブの再生回数も最終的に11万回を超えた。
興行的には成功を収めたと言えるだろう。ただし、肝心のメインイベントで伊藤が三代に小差判定で敗れるという波乱が起きる。伊藤にとっては酷な結果だが、これもある意味「何が起こるか分からない」というスポーツの醍醐味を感じさせたという意味で実にボクシングらしかったと思う。
得意のジャブと右カウンターで勝利をもぎ取った三代が声を弾ませた。
「作戦通りですね。伊藤選手が大きなステージ、イベントを作ったので、僕もSNSで舌戦に乗ったりしていた。より大きな舞台にして最後にかっさらおうと思っていた。吉野選手とは僕がやります。この試合を乗り越えたので、伊藤選手の試合より楽だと思います」