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「選手として難しい状況…」前世界王者・伊藤雅雪が自らプロデュースした三代大訓戦で“まさかの敗戦”のワケ
posted2020/12/28 11:55
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
12月26日、東京・墨田区総合体育館で開催されたイベントはボクシングの魅力が大いに詰まっていた。前WBO世界スーパー・フェザー級チャンピオンの伊藤雅雪(横浜光)と東洋太平洋同級王者の三代大訓(ワタナベ)によるライト級10回戦をメインイベントとする「A-SIGN BOXING」。コロナ禍の中でボクシングの存在感を示そうとした選手と関係者の意気込みが伝わってきた。
プロモーターとして僕も挑戦しないわけにはいかない――。
大会プログラムの冒頭に記されたA-SIGNの主催者、石井一太郎・横浜光ジム会長のコメントである。前世界チャンピオンの伊藤と東洋太平洋王者の三代の対戦といえば、海外遠征や海外選手の招へいが容易だったコロナ前であればおそらく実現しなかったであろう好カードであり、本来であればテレビ放映の興行となるはずだった。
しかし、石井会長はあえて楽な道を選ばなかった。
「テレビ放映のもと大会を催すこともできましたが、あえて僕たちはユーチューブ生配信を選択しました」
テレビ中継を入れればイベントの演出を含めてテレビ局がすべてを仕切ってくれ、「僕らは選手を連れて会場に行って試合をするだけ」(石井会長)だからすごく楽だ。おまけに放映権料まで手に入る。しかし、放送は後日で、しかも深夜の時間帯。アンダーカードを含めて自慢の試合が注目を浴びることは少ない。「これでいいのか?」という葛藤が“挑戦”につながった。
大半の選手はチャンピオンであっても
9月の本稿でお伝えしたようにA-SIGNは新しいボクシング興行のあり方を模索して今年度からさまざまなチャレンジをしている。ユーチューブで選手の物語を盛んにアピールし、クラウドファンディングなどを駆使して選手のファイトマネーを生み出してきた。
その根底には、井上尚弥(大橋)や村田諒太(帝拳)ら一部のトップ選手が億レベルのファイトマネーを稼ぐ一方で、ボクサー人口は減り続け、大半の選手はたとえチャンピオンであっても日の目を見ることがなかなかできない――という危機感がある。それに追い打ちをかけたのがコロナ禍だ。若い選手だけでなく、日本チャンピオンクラスでも引退を選んだボクサーがいた。そんな状況を「何とかしたい」という思いが今回の興行にもつながったのだ。