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「選手として難しい状況…」前世界王者・伊藤雅雪が自らプロデュースした三代大訓戦で“まさかの敗戦”のワケ
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/12/28 11:55
伊藤雅雪(左)はボクシング界の現状を打破すべく、自ら試合を演出し監督としての役割も果たしたが…
「なかなか選手として難しい状況だなと思います」
主役の伊藤は悔しさを押し殺しながら敗北を認めた。
「三代選手は気迫がありました。石井会長や周りの人と話しながら、次を見据えて大きなイベントをやらせてもらって、自分の中でもチャレンジだったけど、僕が勝って成功と思っていたので……。(ランクが下の相手に負けて)なかなか選手として難しい状況だなと思います」
殊勲の三代がステップアップしていくのは当然で、できれば伊藤の作ったストーリーに乗って吉野との対戦が実現してほしい(吉野が試合を受けるかどうかはまだ分からない)。敗れた伊藤もこの1試合をもって終わったわけではない。もともと三代は「高い確率で勝てる相手」ではなく、ライト級最強を証明するためにリスクを冒して選んだ無敗の東洋太平洋王者だ。伊藤が契約する米大手プロモーション、トップランクのオファー次第ではあるが、再びアメリカのリングで活躍する新たなストーリーを描いてほしいと思う。
リスクを冒して失敗したからといって「それで終わり」では、勇気を持ってチャレンジする選手、プロモーターがいなくなってしまう。今回の敗戦は伊藤にとって痛手には違いないが、チャレンジには大きな意味があった。新しい物語に期待したい。