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「箱根駅伝とは“別の軸”で世界と戦える選手を」“指導者”大迫傑が次の世代に託したいこと 

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林田順子

林田順子Junko Hayashida

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photograph byShota Matsumoto

posted2020/12/31 11:08

「箱根駅伝とは“別の軸”で世界と戦える選手を」“指導者”大迫傑が次の世代に託したいこと<Number Web> photograph by Shota Matsumoto

大迫傑は日本人が世界と戦うためのチーム「Sugar Elite」を発足。どんな未来を描いているのか

西山とは「ちょっとダメでした」と話した

「名選手、名監督にあらず」という言葉があるように、優れた選手だからと言って教えるのがうまいとは限らない。大迫はそれを知っているからこそ、先を見据え、回数を重ねることで選手にとってより良い指導法は何かを模索し続けている。

「今回は、自分が教えたいだけで教えちゃダメだと学びました。僕が感覚で分かっていることをきちんと言語化してカリキュラムにしたり、自分自身も整理して話さないといけないとすごく勉強になりました。大学生と練習をした時は感じなかったけれど、彼らに対しても選手の立場で一緒にトレーニングを考えてみたり、ひとりひとりの選手がどんなことを思っているのか想像したりすることも指導者としては大切なんだと実感しましたね」

 今後は中・高校生を対象にしたプログラムや地方での開催なども考えているという。夏合宿に参加した5人とは引き続き連携をとっていく予定だ。実際、日本陸上競技選手権大会でも、再会した選手といろいろな話をしたという。

「試合後、西山くんとは『ちょっとダメでした』みたいなことを話しました。中谷くんは27分台を出して良かったですよね。現時点でシュガーエリートで具体的な目標とかそういうことは全くありません。ただ、シュガーエリートを発足したことでみんなの距離が近くなって、お互いに刺激しあえる関係ができたとは思っています。僕もすごく刺激を受けていますし、彼らもモチベーションや自分が変わるきっかけになっていたらうれしいなと思っています」

箱根駅伝が世界に繋がっているわけではない

 日本選手権1万mでは相澤晃が日本記録を塗り替え、福岡国際マラソンでは吉田祐也が優勝するなど、箱根で終わらず、実業団1年目の選手たちの躍進も止まらない。

「若い選手も台頭してきて、陸上界がこれだけ盛り上がってきたのはすごいことです。でも、野球やサッカーに比べたら実力がありながら世間に知られていない選手はまだたくさんいます。

(注目を浴びる)箱根駅伝には箱根駅伝の素晴らしさやドラマがありますが、世界を目指すためには違う“軸”を視野に入れる必要がある。大学を卒業後、箱根の延長線上で国内の駅伝を中心に走っていても、世界と戦える選手が生まれるかと言ったら、僕はやはり難しいと思います。だからこそ、駅伝ではなく陸上の価値をいかに上げていくかが大切じゃないでしょうか。素晴らしい選手がたくさん出ている今の状況をこのまま終わらせたらもったいない。そのためにはシュガーエリートに限らず、いろいろな選手たちと協力して陸上の価値を上げていきたいと思っています」

 コロナに翻弄された1年もまもなく暮れる。オリンピックイヤーの新しい年に、選手として、指導者として、大迫はどんな活躍を見せてくれるのか。楽しみにしたい。

Number1017号「箱根駅伝 ベストチームを探せ!」は、原監督の独占インタビュー「箱根は勝つだけじゃつまらない」や、東洋大学OBの柏原竜二とその同級生の座談会「山の神と4人の絆」、駒澤大学「大八木弘明、進化する愛の名将」など、新年の箱根駅伝をより楽しむための記事が満載。別冊付録の「選手名鑑」は20大学、320名のエントリー選手を網羅した完全版です。

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