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「偉大な選手を忘れたくなかった」DeNA伊藤光が明かす、最終戦で掲げた“『石川雄洋』タオル”の秘話
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2020/12/08 17:01
「思い通りにいかない1年でしたね……」と今季を振り返った伊藤光捕手
伊藤というキャッチャーはバッテリーを組む投手に対してばかりではなく、若いときから喜びや哀しみなどさまざまな経験をしてきたがゆえに、誰に対しても寄り添うことのできる人間である。光と影を知るからこそ、広い範囲に目が行き届く。
そんな伊藤の2020年シーズンは、艱難辛苦ともいえる日々だった。
3失点で交代させられてしまった巨人戦
「個人的には思い通りにいかない1年でしたね……」
昨年オフに4年契約を結び、正捕手として期待されていた伊藤だったが、試合出場は30試合、スタメンでマスクを被ったのはわずか20試合だった。自慢のバッティングも打率.216と本領を発揮することができなかった。
とくに7月18日の巨人戦で今永昇太と組んだ伊藤は、2回表に3失点すると、3回表に戸柱恭孝と交代させられてしまう。試合後、ラミレス監督はこの不自然ともいえる交代劇に関し「伊藤と今永のコンビネーションがあまり機能していなかった。試合前に戦略を立てたが、我々が練ったものとは違う方向へ行っていた」と語っている。
そのときのことを尋ねると、伊藤はしばし考えをめぐらせ、口を開いた。
「難しいですね。結果的に3失点していますし、良くなかったことは間違いない。試合を作れていないと判断されてしまったんだと思います」
まず反省の弁を述べると、次のように続けた。
「監督はご存じのように数字にものすごくこだわる方です。データはバッターの特性を知るためにも必ず参考にしなければいけないもの。ただ試合になると、必ずしも計画通りいかない場合もあります。コンディションによってピッチャーがボールを操れないときもありますし、そういうときは2人で意思を合わせて勝負に行くのですが……」
データを第一に考えるか、現状を第一に考えるか
この日のバッテリーの様子を見ると、伊藤はマウンド上やベンチで幾度となく今永と言葉を交わしていた。また今永は、伊藤の出したサインにほぼ首を振らずにボールを投げ込んでいた。もし伊藤の攻め方に納得できなければ、きっと今永は首を振っていたはずだ。そこは自分の状態を鑑み、伊藤との間で意思疎通があったのだろうというのは想像に難くない。だが伊藤は言うのだ。
「結局、結果を出すことができなかったので自分が悪かったと思っています」
データを第一に考えるか、現状を第一に考えるか。あくまでも一般論ではあるが、キャッチャーとの会話で、その難しさや特殊性においてよく語られるのが「2つの目」についてだ。まず1つは、言うまでもなく対戦する“バッターの目”。そしてもう1つが“ベンチの目”である。誤解を恐れずに言えば、キャッチャーは時にこの「2つの目」と戦わなければいけない。味方とも駆け引きが存在するキャッチャーは、非常に難しいポジションだといえる。
この試合の翌日、伊藤は高城俊人と入れ替わりでファームへ行くことになる。理由は元々キャッチャーを入れ替える予定があったこと、それと伊藤の捕手防御率を懸念してのことだった。