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「偉大な選手を忘れたくなかった」DeNA伊藤光が明かす、最終戦で掲げた“『石川雄洋』タオル”の秘話
posted2020/12/08 17:01
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph by
JIJI PRESS
その手には『石川雄洋』のフェイスタオルが握られ、頭上高く掲げられていた――。
11月14日、横浜DeNAベイスターズの今シーズン最終戦。サヨナラ勝ちした試合後のセレモニーでは、5年間チームを率いたアレックス・ラミレス監督を先頭にコーチや選手たちが横浜スタジアムをゆっくりと一周し、ファンの大きな声援に応えていた。
「あっ、あれですか?」
伊藤光は、照れくさそうな微笑みを浮かべた。
じつはあの日、石川のタオルを掲げグラウンドを歩いていたのは伊藤だった。そこには黒マジックで背番号『42』と記された直筆のサインがあった。石川は16年間所属したベイスターズを今季で退団することとなったが、この日のセレモニーには参加していなかった。
「感謝の気持ちと言うんですかね……」
噛み締めるように伊藤は語りだした。
「誰もがタケさんはまだできると思っていますよ」
「長きにわたってベイスターズを支えてきた実績のある選手で、僕は約2年半しか一緒にプレーできませんでしたが、タケさん(石川)の背中で引っ張る姿を尊敬していたんです。僕が(2018年途中に)移籍してきたとき、以前から面識があったとこともあり、積極的に声を掛けていただいたり、食事に誘ってもらうなどチームに馴染みやすい環境を作ってくれたんです」
じつはDeNAに移籍する以前から伊藤の母親が石川の大ファンであり、交流戦でベイスターズと対戦するときはよく話を聞かされていたという。シーズン最終戦前、伊藤は石川とファーム施設で顔を合わせ言葉を交わすと、自ら買ってきたタオルにサインをもらった。
「チームメイトの誰もがタケさんはまだできると思っていますよ。退団することが決まって寂しかったし、ファンの皆さんも同じ気持ちだと思ってタオルを掲げたんです。本当ならユニフォームを着てプレーする姿を見せたかったでしょうが、それは叶わなかったので、僕としてはチームに貢献した偉大な選手を忘れたくないという気持ちもあり、ああいった行動をさせてもらいました」