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怪物・井上尚弥、“豪傑・パッキャオ”の域を目指し、次戦はWBO王者カシメロ? それとも…
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGetty Images
posted2020/11/09 17:03
王者・井上尚弥(大橋)はジェイソン・マロニー(オーストラリア)に7回KO勝ちと、完璧な勝利を飾った
パッキャオのキャリアで最大の幸運は、アメリカ進出後、同世代にマルコ・アントニオ・バレラ、エリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケスという強力なライバルに恵まれたことだった。それぞれ殿堂入り確実のメキシコ三銃士と複数回にわたって対戦し、全員に勝ち越すことで、パッキャオの名はボクシング大国メキシコ、アメリカでおなじみになった。以降の活躍もすべてはメキシコ3強とのシリーズで築いた基盤があればこそ。それに近い宿敵を見つけることが井上の大きなテーマになる。
昇級しても超越的な強さを保てるか
「攻撃的なスタイル、爆発的なパワーなど、井上はパッキャオを思い出させる。いずれ上の階級に挑戦を見出さなければいけなくなるはずだ。パッキャオがスーパーウェルター級まで上げたようなことは難しいにしても、井上もスーパーフェザー、ライト級くらいまで上げられるだろうか? 井上は特別な選手なので限界は決めたくない」
The Athleticのマイク・コッピンジャー記者が自身のPodcast内でそう述べていた通り、井上もいずれ昇級を考えることになるのだろう。まず現在の周辺階級ではファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)、ルイス・ネリ(メキシコ)あたりまでが当面のビッグファイトの相手候補か。さらに上の階級にまで目を向けると、エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)、シャクール・スティーブンソン(アメリカ)、さらにはスーパーフェザー級以下まで落としてきた場合のワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)……。
これらの強豪たちと拳を交える過程で、井上は超越的な強さを保てるのか。それと同時に、サポート役のトップランクは、一般のスポーツファンまで惹きつけるだけのストーリーを紡げるか。どちらも低いハードルではないが、それらを成し遂げたとき、日本のモンスターは真の意味で世界を震撼させる超センセーションになる。
まだバンタム級の統一路線でやり残しがあるだけに、こういった話は少々気が早すぎるかもしれない。ただ、パッキャオという名前と同列にしてもクレイジーとは思われないほど、とてつもない可能性を秘めたボクサーが日本から生まれたのはもう誰も否定できない事実である。
10月31日のベガスデビュー戦は新章のプロローグに過ぎず、物語はこれからさらに広がりをみせていく。同世代に生きる私たちは、日本人がこれまで見ることができなかった夢を一緒に見ることができそうだ。
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