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日本のスクラムの強さとは一体なにか? 堀江翔太、稲垣啓太らを突き動かした「慎さん」の情熱と探究心
text by
倉世古洋平(スポーツニッポン新聞社)Yohei Kuraseko
photograph byAFLO
posted2020/11/02 11:01
長らく日本の弱点と言われてきたスクラム。長谷川慎コーチはフランスやヤマハで培った技術を日本代表へ還元した
「あいつらを誉めたってくれよ」
長谷川とFW陣からは「強い姿勢」という言葉がよく聞こえてくる。第1列の3人がビクともしない「強い姿勢」を作り、そこにロックを中心とした後ろの5人が押して力を伝える。8人が塊になることこそが今の日本の型だ。
肝となる「強い姿勢」とは何か。胸を張ってお尻を突き出し、股関節に“Vゾーン”を作る。腹の力がそこにグッと入り、低い姿勢をとれる。この状態でスパイク裏のポイントを芝に食い込ませ、力を逃さないようにする。15年大会代表で、今回も最後まで代表争いをしたプロップ山下裕史は「股を割る姿勢。一番力が入る」と表現した。
長谷川いわく、外国人は姿勢が直線的になり力を貯める湾曲の形をつくりにくいのだという。だからこそ、トンガ出身のプロップ転向組の2人への賛辞を惜しまない。
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ヴァルアサエリ愛は15年から、中島イシレリは今年1月から、ともにNo.8から今のプロップにポジションを変更した。中島は突貫工事に近かったが、インターナショナルレベルまで成長。アイルランド戦でも途中出場した2人はスクラムを支え、マイボールキープ率100%に貢献した。
試合後の会見。ジェイミーが「ハセガワサン」と言った後に賛辞を続けることも珍しくない。しかし、当の「スクラム番長」から出てくる言葉は選手へのねぎらいばかり。
「あいつらを誉めたってくれよ。めちゃくちゃがんばってんねん」
アイルランド戦、歓喜のエコパスタジアム。ピッチで歓声を全身に浴びるヴァルと中島の元に近寄って、肩を組んだ。
首を押さえながら必死に走った具
「アイルランドは、試合前から押してくるチームだと分かっていて、押し返せたのは自信になりました」
雄叫びをあげたゲーム中の鬼の形相が消え、普段の温厚な表情に戻った具が「勝利の場面」をそう振り返った。
自身のプレーの特徴を問われ、「まじめさです」と真顔で答えても異論を唱える者がいないような「愚直」を地で行くラガーマン。ただし、優しい性格がマイナスに出ることもあった。痛みに我慢ができず、練習中でもゲーム中でも悶絶することがある。ジェイミーからは「倒れ込んだら誰がその穴を埋めるんだ。痛くても、とにかく立ってるんだ」と厳しく命じられた。
アイルランド戦では、突発的な激痛に襲われたのだろう。首付近を押さえながら必死に走った。「アジア最強のプロップ」と称えられた具東春さんを父に持ち、日本に根を張った好漢は、文字通り体を張り続け、スクラムの屋台骨になった。