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「雪山で遭難、死にかけたハンガリー軍が…」あのラグビー日本代表をONE TEAMにした“ある実話”
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/10/24 17:00
キャプテンのリーチマイケルを先頭に31人の桜の勇士が 入場する姿はONE TEAMを象徴していた
通訳をしていて、ウルっときた瞬間は?
佐藤氏は、エディー時代の2015年から代表通訳を務め、16年1月に就任内定したジェイミーとは昨年のW杯までタッグを組んだ。言うまでもなく、通訳は監督にとっての「言葉」そのもの。選手たちに戦術や意図、哲学まで浸透させるためには、通訳がいかに言葉を正確に、わかりやすく伝えられるかが大きな鍵を握っている。
指揮官の感情の「温度」を伝えるのも大切な仕事だ。監督が興奮している時、激怒している時、諭している時……。訳す段階になってトーンダウンしてしまえば思いは伝わらず、逆に通訳が熱くなり過ぎれば、選手たちは白けてしまう。
「通訳者が感情移入しすぎて、言葉に詰まったり高揚したり動揺したりすると、脳みそが動かなくなり、もはや自分自身の言葉になってしまう。かといって、エモーションも含まなければ、監督の思いは伝わらない。よく、通訳をしていて興奮したり、ウルっときた瞬間はありますか? と聞かれるんですが、それは一度もないです。もちろん素晴らしいことを成し遂げたんだな、とは思いますが、頭は常に通訳の仕事モードになっているので、何かあった時に的確に伝えたいと神経を張り巡らせていますから。どんなにウルっとくる言葉だとしても、ちゃんと伝えるのが僕の役目だと思って平常心で話を聞いています」
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現在は佐藤氏は、代表チームを離れ、履正社医療スポーツ専門学校で「スポーツ外国語学科」の学科長を務めている。
「プライベートもなくて大変な仕事だと思っていましたが、いざラグビーから離れてみると今は恋しいですね。凄いところにいて通訳をさせてもらっていたんだな、この仕事は本当に面白いんだなと改めて感じています」
W杯から1年。通訳した「言葉」のひとつひとつが積み重なって生まれた「ONE TEAM」の熱狂は、佐藤氏にとっても格別な瞬間だった。