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「雪山で遭難、死にかけたハンガリー軍が…」あのラグビー日本代表をONE TEAMにした“ある実話”
posted2020/10/24 17:00
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
Naoya Sanuki
■「Drive」
言わずと知れた「運転する」という意味の言葉だが、ジェイミーや、アタックコーチのトニー・ブラウンは、「促す」、「率先する」、「牽引する」などの意味でよく使っていたという。
佐藤氏「何をするのにも、自ら考えて自分でドライブする=自発的に行動することが大切。特にリーダーグループのメンバーには、今どこを強化すべきなのか自分で積極的に考えて、チーム全員に考え方を伝えていかないといけない、とよく話していました」
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特に日本人選手は、「勤勉で従順」という強みがある一方で、自分の意見を表明したり新しい提案をするのは苦手。ラグビー界でも、代表やクラブチームのミーティングの場面などで発言するのは外国出身の選手が多いという。
「ラグビーは瞬時の判断が問われるスポーツだけに、それぞれ主体性を持って取り組んできたことはONE TEAMの底力になったと思います」
前回の2015年大会では、管理型の指揮官であるエディー・ジョーンズHCのもと、絶対的な規律と「ハードワーク」で南アフリカ戦で歴史的勝利を挙げた。その頑丈な土台の上に「自主性」という成長を積み重ね、さらなる躍進を生み出したジェイミーの意図が伝わってくる言葉だ。
雪山で遭難、死にかけたハンガリー軍が……
■「Map」
「地図」という言葉にまつわるエピソードはアツい。プール戦の大一番となったアイルランド戦前、チーム宿舎でのミーティングに「ゲストスピーカー」として訪れたヤマハ発動機の監督、堀川隆延氏が全員を前に話した、ある実話――。
ハンガリー軍の偵察部隊がアルプス山脈の雪山で遭難した。猛吹雪のなかを彷徨い歩き、なすすべなく死ぬかもしれない、というその時。ある隊員がポケットから見つけたのが1枚の地図だった。隊員たちは、この地図を頼りに方向を見定めながら進み、全員が無事下山することができた。ところが……。後日、命を繋いだ地図を改めて眺めてみると、それはアルプスではなく、ピレネー山脈の地図だった。
「間違っていようが、合っていようが、全員が信じればそれが正解になる。堀川さんは、ジェイミーはじめ各コーチがこれまでどんなに考え抜いてプランを作ってきたかご存知の方です。その作り上げてきたものが、合っているか、間違っているかはここまで来れば問題ではない。全員が積み上げてきたものを信じ抜けるかどうか。準備とプランを信じ抜こうと再確認したいい時間になりました」
実は、選手たちにも「Map」を信じ抜く心の土壌が育っていた。
大会前の2019年6月13日発売の「Number980号」のインタビューで、司令塔の田村優は奇しくもこんな言葉を語っている。
「(戦術がチームに)向いてる向いてないより、信じるか信じないかだと思います。みんなが同じことを信じれば、絶対にうまくいく」
ONE TEAMは、1人も欠けることなく、信念を貫く覚悟を持った集団だったのだ。