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「あっ、ノーリーズン落馬だ!」「え~っ!」競馬実況アナウンサーが語る名ゼリフが生まれる瞬間 

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2020/10/10 11:03

「あっ、ノーリーズン落馬だ!」「え~っ!」競馬実況アナウンサーが語る名ゼリフが生まれる瞬間<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

左から関西テレビ1997年入社の岡安譲、62年入社の杉本清、74年入社の馬場鉄志

日本で一番早かった「あっ、ノーリーズン落馬だ!」

岡安 馬場さんのスタートを見極める力もすごいと思っています。02年菊花賞のノーリーズンの落馬(当時1番人気だったがスタート直後に落馬し競走中止)も、気づくのがとても早かったですよね。「あっ、ノーリーズン落馬だ!」って。

馬場 日本で一番早かった(笑)。ゲート空いた瞬間から、もっというと、枠内駐立から競馬は始まっているんです。スターターがレバーを引いたら、その0.2秒後にはゲートが開く。その間に立ち上がった馬は出遅れる。だからその間ずっと神経を尖らせて、スタートをちゃんと見る必要がある。スタートしてから、他の馬にぶつけられてしまったり、挟まれたりして1コーナーまでで競馬が終わってしまう馬も何頭もいるわけですから。4コーナーでも、ジョッキーの手応えをいち早く捉えて、一言いっておく。99年の秋華賞でも直線の手前で来そうな馬を捉えて、「それからブゼンキャンドルであります」とあらかじめ付け加えました。そうするとそれが来るんですよ(12番人気で1着)。そういう目の良さは競馬実況の若いアナウンサーにはぜひ身につけておいてほしいね。

「後ろからはなーんにも来ない!」独走こそ難しい

 岡安は馬場の後を継ぎ、10年から菊花賞の実況を担当。その後、報道番組のメインキャスターを経験し、18年から再び競馬実況に戻ってきた。最近のレースで改めて実況の難しさを感じることがあったという。

岡安 少し前になりますけど、阪神スプリングジャンプでオジュウチョウサンの実況をした時に改めて「名馬の独走」は難しいなと感じました。

馬場 杉本さん実況の75年桜花賞を思い出すね。逃げてそのまま突き放したテスコガビーの「後ろからはなーんにも来ない! 後ろからはなーんにも来ない! 赤の帽子ただひとつ!」(杉本節で)ですよ。名実況になった。本人は言うに事欠いてと言ってましたけど。

杉本 言うに事欠いた。

馬場 本馬場入場のときは「テンよし中よし終いよし。つけて加えて超グラマー」(引き続き杉本節で)って言うんだから(笑)。

杉本 喋り間違わないという意味だと独走は楽ではある。ただそういう展開になったときが、アナウンサーの腕の見せ所というか喋りがいがあるよね。そこをどう表現し盛り上げるか、力量が問われる。18頭で混戦になったほうが馬の名前を言っている間にゴールが来てくれるわけですよ。

馬場 野球でも乱打戦のほうがしゃべりやすいんですよ。投手戦でどういう球を投げるかって前の打席から全部頭に入れていないとしゃべれないし、杉本さんが仰ったようにゴチャゴチャになったほうがかえってやりやすいんですよ。

杉本 でも振り返ると、僕らの頃の競馬は今に比べるとマイナーな存在だった。オグリキャップ以降ポピュラーになって今では当たり前。そうすると、レースを実況するだけではいけなくなってくる。今年なんかは特にレース以外のことを触れるべきだよね。「無観客」などの具体的な言葉で言わずに表現していくとレースの深みが出てくると思う。若いアナウンサーたちにはそういった表現をもっともっと磨いていってほしいね。

 果たして今年の菊花賞では、どんな名実況、名フレーズが生まれるのだろうか。気づけば2時間に及んだ座談会。お互いの三冠馬誕生の瞬間について語り合った座談会本編「これが三冠実況アナの結晶だ!」は、Number1012号「三冠親仔伝説」に収録されている。

Number1012号「秋競馬GⅠプレビュー 三冠親仔伝説」は、無敗三冠を狙うコントレイルの近況レポートと、主戦騎手・福永祐一&棋士・渡辺明の「名手・名人対談」を巻頭に掲載。武豊の「とことん血統論」、横山典弘親子と岩田康誠親子のダブル「親子で語ろう」、ルメールやデムーロらが語る「オヤジ・おふくろ」、杉本清氏ら関西テレビ歴代アナの「三冠実況座談会」、新直木賞作家・馳星周氏の特別寄稿「妻とわたしとステイ一族」など、馬と人のファミリーヒストリー満載です!

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