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渡辺明×福永祐一「重圧、会心、そして次なるステージへ」~異種頂上対談~
posted2020/10/12 07:00
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
Takuya Sugiyama
7年前に行われた二人の初めての対談は、NHK Eテレの「SWITCHインタビュー 達人達」という番組でのことだった。「無趣味」を自認し、将棋はルールさえおぼつかない福永祐一と、たくさんの趣味の中でも競馬がその筆頭に来る渡辺明の対談。噛み合いそうで噛み合わないのかと思えば実は逆で、渡辺がぶつけてくる質問を楽しいと感じた福永がその人生観をさらけ出し、渡辺もハミをガチッと噛んで、福永の話術の前に勝負師の本音を吐露した。
その後の7年間で、福永はダービーを2勝し、渡辺は棋界最高の栄誉である名人位に就いた。しかも現在三冠。コントレイルで三冠に挑む福永と、またしても中身の濃い会話が展開された――。
福永 渡辺さんは相変わらず競馬を?
渡辺 もちろんです。ダービーの本命も当然、コントレイルでしたし、応援していました。断然1番人気の馬に乗るプレッシャーって凄まじいものなんでしょうね。
福永 それが、なかったんです。緊張を楽しんでやろうって、待ち構えていたんですが(笑)。パドックに出るときに、緊張感が膝の高さくらいまで上がってきたけど、胸までは来なかった。
渡辺 それは馬の力を信じていたから?
福永 勝つと確信していたから、という方が正しいかな。馬の力差というのは当然あるわけで、3歳牡馬世代はコントレイルとサリオスが春の時点で圧倒的に力が抜けていました。向こうは皐月賞で完璧な競馬をしたと思うし、かたや僕は1枠から難しい競馬を強いられて、完璧とは言えない形。小差でしたが、それでも勝てた事実は大きい。ダービーはコントレイルの適性を考えても、こちらにだいぶ分があると思っていました。だから、僕自身が余程下手な乗り方しない限りは勝つだろうと。ダービーでは皐月賞とは逆にこっちが完璧で、向こうが後ろから外を回す形になったでしょう。その結果があれだけの差になる。まあ、ある程度予測できたことです。