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錦織圭「一番良かった」は強がりではない 全仏2回戦敗退も美しいダウン・ザ・ライン発動
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2020/10/02 11:01
これまでの実績を思えば「2回戦」は早期敗退なのかもしれない。それでも錦織圭は復活の気配を感じさせるショットを放っていた
「リズム、感覚がつかめていれば3セットで」
リズムに乗っていけば、ブレークポイントは自然と自分に転がり込んでくる。相手がいいプレーをしていても、安定したプレーで重圧をかければそのレベルは落ちてくる。それがいいときの錦織だ。
だが、約1年ぶりに復帰してからの数試合は、試合運びがギクシャクしている。錦織は「思い切ってフォアハンドを使ったり、バックハンドのダウン・ザ・ラインに来たり、かなり振り回された」とトラバリアを褒めたが、試合運びのまずさが相手を乗せてしまったとも言える。
試合後の錦織は、これまでと同じように、感情を出さず淡々と記者の質問に答えた。敗戦からポジティブな要素を探して言葉にするのも、いつもの態度だった。ただ、この日は、普段にも増して現状を肯定する姿勢があった。
「(復帰してから)一番良かったは良かったですけどね。まだまだ自分のいいときには全く達してないですけど、今まででは一番いい試合が――感覚としては良かったので、もうちょっと元気で、もうちょっとリズムだったり感覚がつかめていれば、3セットで勝てた試合だったので、あとはどんどん試合をこなしていくしかないですね」
いつもより少しだけ力を込めた口調
平坦な口調で話すことの多い錦織が、いつもより少しだけ力を込めていると感じた。悔しさを封じ、前を向こうとしている。前に進んでいると信じようとしている。それがよく分かった。自分はこんなもんじゃない、という心の内ものぞかせた。それだけ悔しい敗戦だったのだ。
では、なぜ彼は、世界ランキング74位に敗れた試合を「一番良かった」と振り返ったのか。そう思うことで、無理やり自分を信じようとしているのだろうか。「今まででは一番いい試合」は強がりなのか。